赤いテープの内側
赤いテープの内側では、何が起きても映らない。
映画撮影所の第七スタジオで、主演俳優の衣装に使う本物の宝石が盗まれた。床には四角い赤いテープが貼られ、その範囲だけ天井カメラの死角になっている。事件当夜、助監督が四角の中へ入り、直後に宝石箱が消えた。
テープの四隅は、なぜかすべて外側へ小さく折られていた。美術担当は、剥がしやすくするためだと説明した。
また、四角の中央には銀色の釘が一本だけ打たれていた。舞台装置の位置決めだろうと誰も気に留めなかった。
助監督は、赤い四角は俳優が着替える際のプライバシー区域で、入ってはいけないと知っていた。それでも中へ入ったのは、落ちていた台本を拾うためだという。映像では、確かに彼がかがんだ直後、衣装係が宝石箱の紛失に気づいている。
宝石箱の留め金からは助監督の指紋が出た。彼は撮影前に小道具を確認したためだと説明したが、プロデューサーはその作業自体を否定した。衣装係の作業表には助監督の署名があり、誰かが過去の正当な接触を、事件当夜の証拠として使おうとしていた。
私はスタジオの照明をすべて落とし、釘へ懐中電灯を当てた。釘の頭は鏡面になっており、天井の梁にある小さな黒い箱を反射した。赤いテープの折り返しにも、同じ方向を示す微細な印がある。
第七スタジオでは危険な落下スタントを撮る予定だった。赤い四角は着替え場所ではなく、俳優が着地する範囲を複数の高速カメラで測るための校正区域だった。通常の防犯カメラには映らなくても、梁の高速カメラは中央の釘を基準に、四角の内部だけを記録している。
撮影データを再生すると、助監督は台本を拾っただけだった。その五分前、衣装プロデューサーが四角へ入り、宝石を小道具の偽物と交換していた。彼は通常カメラの死角だけを確認し、撮影用カメラが回っているとは思わなかった。
プロデューサーは、赤いテープが「映さないため」の印だと皆へ説明していた。自分が安心して入れるように。
赤いテープの内側では、何が起きても映らない――その説明だけが偽物だった。
四隅が外を向いていたのは、人を隠す囲いではなく、四方のレンズを一点へ向ける照準だったのだ。