赤い汁の白い島

大神芙由は、キムチ鍋の中央に浮く白い豆腐を、自分の皿へ取った。

向かいには、高校からの親友がいる。ほかの友人たちも同じ卓を囲んでいるが、二人の間だけ、鍋より熱い沈黙があった。

親友のスマートフォンに、芙由の元恋人から届いた通知が見えた。短い文の最後に、赤いハートがついていた。

別れたのは半年前だ。もう関係ないと言えば、それまでだ。けれど親友は、芙由が別れたあと何か月も泣いたことを知っている。夜中の電話を受け、元恋人の荷物を箱へ詰めるのも手伝ってくれた。その人だからこそ、知らないふりをされていたことが苦しかった。相談を聞きながら、いつから連絡を取っていたのか。芙由は聞けずにいる。通知を見た瞬間から、鍋へ入れる白菜を数えるふりをして、親友の顔を一度も見られなかった。

鍋から発酵した白菜の酸っぱい香りが上がった。豆腐の表面は赤い汁に染まっていたが、中は白く滑らかだった。芙由は周りから薄く削るように食べ、白い中心を四角く残した。

親友が肉を取り分けようとした。芙由は皿を引いた。

「それより、見えた」

視線をスマートフォンへ落とす。親友は画面を伏せた。

長い釈明は始まらなかった。親友は鍋の火を止め、元恋人とのメッセージ画面を開いた。最初の連絡の日付は、別れた三か月後だった。芙由が想像していた裏切りより遅く、それでも黙っていた事実より早かった。

親友は送信欄に何か打ち、芙由へ見せた。〈芙由に話すまで会わない〉とある。

許可を求められているようで、芙由は首を振った。友人関係を守るために、自分が二人の交際を認める役まで引き受けたくなかった。

「会うかは、自分で決めて。私は、しばらく会わない」

白い豆腐の中心を一口だけ残し、皿を鍋から遠ざけた。関係を赤い汁へ戻して、全部同じ色にする必要はなかった。

親友はその一口を取ろうとせず、空の小皿を芙由の隣へ置いた。距離を置くための場所のようだった。

帰り道、芙由は親友とのチャットを削除しなかった。ただ通知を切った。

白い島は小さくなっても、最後まで赤には染まりきらなかった。