赤い灯のドック
午前二時二十分、十番バースの灯が赤いまま変わらなかった。
高遠仁志の倉庫では、トラックを正しい位置に停め、輪止めをかけるとドックの灯が緑になる。緑にならなければ、荷役は始めない。今夜の車には、夜明け前に店へ届ける弁当容器が満載だった。
「センサーが濡れてるだけだ。手で切り替えろ」
台風の雨がヤードを横殴りにしていた。運転手も出発時刻を気にし、荷台の扉を開けようとする。仁志は操作盤に触れず、トラックの後輪を見た。輪止めは掛かっている。だが右側だけ、タイヤと止め具の間に指一本ぶんの隙間があった。
「車体が下がっています」
積荷の重みで沈んだのではない。運転手がエンジンを切ったあと、空気ばねの圧が抜け、荷台がゆっくり下がりながら数センチ後退していた。ドックとの隙間は狭く見えるが、固定が効いていない。
「この程度、動かないよ」
仁志は返事の代わりに、荷台と建物の間へ置かれたゴム板を指した。雨水に押され、板が少しずつ外へ動いている。フォークリフトが荷台へ乗れば、その反動で車体も動く。ドックレベラーが外れれば、車体ごと落ちる。
彼は一度トラックを前へ出させ、平らな十一番バースへ付け直した。十番の路面には雨水がたまり、わずかな傾斜ができていた。十一番で輪止めを左右とも密着させ、運転手にブレーキを再確認してもらう。灯が緑へ変わってから、初めて扉を開けた。
遅れを取り戻すため、仁志は二台のフォークを同時に入れなかった。荷台が軽くなるほど車高が変わるため、一列下ろすごとに接続部を確認した。急ぐほど確認回数を増やした。
午前三時十分、弁当容器は濡れずに倉庫へ入った。空になった車体が少し持ち上がり、ドックレベラーの角度が変わる。運転手はそれを見て、赤い灯の意味をようやく理解したようだった。
仁志が十番バースを閉鎖表示にすると、無線が鳴った。
「十二番に冷凍車到着。運転手が、緑になる前に扉を開けています」
雨はまだ横向きだった。仁志は赤い誘導灯を手に、次のドックへ走った。