赤点二枚の共同戦線
親友と好きな人は、そろって数学の追試になった。
私は学年上位。
担任に頼まれ、放課後の補習係になった。
「先生より分かりやすい」
好きな人が言うと、親友も大きくうなずいた。
三人で空き教室に残り、二人分の間違いを直した。
最初は嬉しかった。好きな人の隣に座り、名前を呼ばれ、頼られる。
けれど一週間もすると、二人は私が問題を準備している間に雑談するようになった。
同じ動画を見て笑い、同じ店へ寄った話をする。
「昨日も会ったの?」
私が聞くと、親友は気まずそうに目を伏せた。
「問題集、買いに」
好きな人は何も気づかず、「そのあと喫茶店で勉強した」と続けた。
私抜きの勉強会。
胸が痛んだ。
追試当日、二人は教室へ入る前に拳を合わせた。
「共同戦線、勝とう」
好きな人が言う。
私は廊下で待った。
結果は二人とも合格。
親友は泣きながら好きな人へ抱きついた。ほんの一瞬だったが、好きな人も背中へ手を回した。
私は拍手した。
「先生のおかげ」
好きな人が私へ笑った。
先生。
またその役だった。
親友は私の顔を見て、抱きつく手を離した。
「ごめん」
好きな人が首をかしげる。
私は急いで言った。
「合格したんだから謝らない」
放課後、三人で合格祝いのジュースを買った。
二人は同じ味を選び、私は別の味にした。
校門前で、好きな人が先に帰った。
親友は立ち止まった。
「好きになった」
「知ってる」
「あなたも、まだ好き?」
「うん」
親友の目に涙が浮かんだ。
「私、告白していい?」
公平な許可など、私には出せない。
「私に聞かないで」
強く言った。
親友は泣いた。
私も泣いた。
次の日、親友は告白した。
二人は付き合い始めた。
私は補習用に作った問題プリントを捨てられず、机の引き出しへしまった。
数か月後、親友がまた数学で赤点を取った。
「教えて」
昔と同じように頼まれた。
一瞬、断ろうと思った。
でも私は答えた。
「有料。一問につきチョコ一個」
親友は笑った。
友情が元どおりになったわけではない。好きな人を失った痛みも消えていない。
それでも、私が先生役しかできないと思った関係に、自分で条件をつけられるようにはなった。