逃げた王が捨てた国を拾う

拾得屋オルミは、戦場の後で落とし物を集めて暮らしていた。

折れた剣、片方の靴、持ち主のない銅貨。返せる物は返し、名札のない物だけを売る。それでも騎士は彼女を盗人と呼び、拾得証を何度見せても荷を蹴った。

職業技能は、所有権のない物にしか働かない。

【職業技能《正当拾得》:持ち主が自ら捨てたもの一つを拾い、次の正当な所有者となる。】

魔王軍が王都を囲んだ日、王は民衆の前で逃げた。

王冠を石畳へ投げ、転移門へ駆け込みながら叫ぶ。

「こんな国はもういらぬ! 城も民も好きにしろ!」

その言葉を待っていた魔王が、空に巨大な契約陣を開いた。

古い征服法では、支配者に捨てられた土地は最初に手を伸ばした者のものとなる。魔王が王都を所有すれば、住民全員は物品として軍へ分配される。

騎士たちは王の後を追い、転移門は閉じた。

広場に残ったのは、逃げ遅れた民と、落ちた王冠を拾う仕事しかないオルミだった。

魔王の手が契約陣へ触れる。

《所有者なし:王国》

その表示を見て、オルミは王冠ではなく足元の土へ手を置いた。

王が捨てたのは金の輪ではない。

城も、畑も、そこに暮らす人々も含めた国そのものだ。自分の意思で「いらない」と宣言し、所有を放棄した。

ならば、それは拾得できる。

「落とし物、一国。確かに預かります」

契約陣の表示が書き換わった。

《正当所有者:拾得屋オルミ》

魔王の征服印が弾け、伸ばした指が焼ける。所有者のいる国を、無主地として奪うことはできない。

オルミは王冠を拾い上げたが、頭には載せなかった。拾得票を一枚結び、広場の掲示板へ掛ける。

《保管期限:民が次の統治者を選ぶまで》

人々が武器を取り、正当な持ち主の許可を得た城壁が光を取り戻す。魔王軍の前で、閉ざされていた全門が一斉に開いた。

オルミは先頭で拾った錆び剣を構えた。

掲示板の前には、鍛冶屋、教師、農民、元兵士が並び、次の国の決め方を話し始めた。オルミは議長席を断り、落とし物窓口の小机へ座る。逃げた王が後日返還を求めても、故意に捨てた品は無条件で戻らない。拾得規則の最初の一条だった。

【職業《拾得屋》が上位職《棄権継承者》へ書き換わりました。】