逃げない鳥が見張る畑
斥候ヴァシュは、敵襲を三度見抜き、三度とも上官に黙殺された。
四度目に砦が落ちると、責任だけを押しつけられた。辺境へ送られる荷車には、倉庫の隅の《復唱杭》が一本載せられていた。地面へ打ち込み、最初に聞かせた警告を、獣が近づくたび繰り返す魔法農具だ。
軍では使えなかった。敵味方の区別がつかず、夜通し叫んで兵を眠らせないからだ。
新しい畑には、狐の足跡が並んでいた。まだ種も少ない。初日の仕事は、畑の端に案山子を一体立てることだけ。
ヴァシュは古い上着へ藁を詰め、復唱杭に着せた。地面へ打ち込む。木槌を三度振ると、杭の目にあたる節が黄色く光った。
さて、何と覚えさせるか。
「獣が来たぞ。畑を守れ」
低く、はっきり言った。杭は一度震え、声を飲み込んだ。
夕暮れ前、黒い鴉が五羽、案山子の肩へ降りた。逃げるどころか羽を休め始める。ヴァシュは額を押さえた。
「鳥除けにもならんのか」
その瞬間、藪から狐が顔を出した。
案山子が腹の底から叫ぶ。
『獣が来たぞ。畑を守れ!』
驚いた鴉たちが一斉に飛び立ち、狐の頭上を羽ばたいて追い回した。狐は尻尾を巻き、森へ逃げる。鴉は案山子へ戻ると、勝ち誇ったように鳴いた。
鳥を追わず、鳥に見張らせる農具だったらしい。
砦では、警告を聞かせる相手は上官だけだった。ここでは鴉が聞き、すぐ動いた。階級章も命令書もないのに、五羽は案山子の左右へきちんと散開している。
ヴァシュは笑いながら、畑の隅に落ちていた木の実を案山子の肩へ置いた。報酬の支給まで、王国軍より早い。
ヴァシュは案山子の足元で小鍋を火に掛けた。干し豆と燻製肉が煮え、蓋がことこと踊る。
砦からの伝令が来たのは、そのころだ。
「北門がまた襲われました。隊長は、あなたの警告能力を再評価すると」
封書を差し出す声に、以前の謝罪はなかった。
ヴァシュは開かず、案山子の胸ポケットへ差した。
「そいつに読んでもらえ」
伝令が去ったあと、風で杭が揺れた。
『畑を守れ!』
「分かってる。まず飯だ」
鴉五羽と案山子に囲まれ、ヴァシュは誰にも無視されない夕食の蓋を開けた。