銀盆の上で首輪は割れる

王宮晩餐会の給仕長は、料理ではなく暗殺のために造られていた。

戦闘侍女C―12。銀盆を盾に、肉切りナイフを投剣に変える。喉元の細い銀環には料理長の所有印があり、「最後の皿」と告げられた相手を必ず殺す仕組みだった。

新任料理人コルネが厨房へ入った夜、宰相が密かに銀環の譲渡証を持ってきた。

「今夜からお前が給仕長の主人だ。王女へ菓子を出す際、『最後の皿』と言え」

王女を暗殺し、料理人の事故に見せかけるつもりだ。

C―12は焼き菓子の盆を持ち、無表情で待っている。銀環の空欄へコルネが指を当てれば、所有印が移る。

「登録してください。拒否した場合、旧所有者の最終命令が優先されます」

既に料理長は宰相に殺され、最後の命令を仕込まれていた。

コルネは譲渡証を窯へ放り込んだ。

宰相が顔色を変える。

「愚か者! 書き換えなければ止められん!」

「厨房には、固いものを割る道具が山ほどあります」

コルネは飴細工用の小槌を取り、銀環の留め具を叩いた。

一打目。C―12の腕が勝手に動き、ナイフをつかむ。

二打目。刃がコルネの頬をかすめ、壁へ刺さる。彼女は命令へ逆らい、わざと外したのだ。

「離れてください。私は標的へ向かいます」

「あなたこそ、嫌なら止まっていい」

「止まれません」

「だから環を止める」

三打目で銀環が割れ、白い首から滑り落ちた。所有印が床で火花を散らす。

C―12の手から盆が落ちかける。彼女は自分の意思で持ち直し、王女の席へ向かわず、宰相の前へ焼き菓子を置いた。

「最後の皿です」

宰相が悲鳴を上げる。

だが彼女は殺さない。菓子の下に隠されていた暗殺指示書だけを抜き取り、衛兵へ差し出した。

騒ぎが収まると、C―12は裏門から宮殿を出た。コルネは追わず、焦げた菓子を作り直した。

一週間後、厨房の求人札の前に彼女が立っていた。銀環の代わりに、普通の布リボンを首へ巻いている。

「給仕ではなく、菓子作りを希望します」

「武器は?」

C―12は腰の短剣を銀盆へ置き、その隣に自分で買った泡立て器を載せた。

「名前も選びました。メリル。甘いものを作る者、という地方語です」

コルネが予備の前掛けを渡すと、メリルは命令された席ではなく、彼の隣の調理台へ立った。