閉まらない部室の扉
文芸部の部室は、最後の日まで扉が閉まらなかった。
湿気で木がゆがみ、強く押さないと鍵がかからない。
部員は二人。入部希望者が来るたび、難しい話はしないと約束したのに、翌週には来なくなった。結局、最後まで残ったのは私たちだけだった。
卒業する私たちと一緒に、部もなくなる。
机の上には、文化祭で売れ残った部誌が三冊。壁には、過去の部員が書いた締切表。棚の奥から、賞味期限の切れた飴まで出てきた。
「全部捨てる?」
相棒が聞いた。
「部誌は図書室へ」
「読まれないよ」
「置くことに意味がある」
夕日が小さな窓から入り、紙の山をオレンジ色に染めていた。床へ伸びた二人の影が、本棚のところで重なる。
最後の活動記録を書いた。
『部員二名。短編三本。雑談多数。笑い声多数。廃部。』
相棒が赤ペンで訂正する。
『まだ廃部予定』
「もう終わるよ」
「鍵を返すまでは予定」
片づけが終わり、部誌を抱えて廊下へ出た。
扉を閉める。
押しても、戻ってくる。
肩を当て、二人で力を入れた。
「せーの」
ようやく閉まり、鍵が回った。
静かになった。
三年間、誰も来ない部屋で、私たちは小説を書いた。完成しない連載、恥ずかしい詩、互いにしか読まない感想。
終わったことが、扉の向こうへ密閉された気がした。
鍵を持って職員室へ向かおうとしたとき、
ばたん。
背後で音がした。
振り返ると、扉が少し開いている。
鍵をかけたはずなのに、受け金ごと外れていた。
相棒が笑い出した。
私も笑った。
「最後まで閉まらない」
「部らしいね」
私たちは扉を開けたままにし、顧問へ事情を伝えた。
翌日、修理業者が来るまで、立入禁止の札が下げられた。
卒業式の日、部室の前を通ると、新しい扉がついていた。
その下に、小さな紙が挟まっている。
『入部希望者は図書室へ』
一年生の字だった。
私たちは顔を見合わせた。
『廃部予定』の赤い文字は、まだ確定していなかったらしい。
夕暮れの終わりに閉められなかった扉が、誰かの始まりを待っていた。