閉館前の読み聞かせ

町立図書館の児童室で、白髪の女性が子どもたちに絵本を読んでいた。柊木瑞穂。名札には「臨時ボランティア」とある。

新しい広報責任者は、撮影スタッフを連れて入ってきた。

「今日は人気動画配信者の読み聞かせです。一般の方は片づけてください」

子どもたちは続きを聞きたがったが、責任者は本を閉じ、柊木の椅子を壁際へ運ばせた。

「その古い本、画面映えしません。もっと明るい新刊に替えます」

柊木は表紙を撫でた。

青い鳥の本は、病院で長く暮らした子どもが外の季節を知る物語だった。柊木は読みながら、聞く子の呼吸に合わせてページをめくる。責任者はその間を「動画では離脱される」と言い、物語を三分に縮めた台本を押しつけた。柊木は台本を受け取らず、最後まで聞きたい子の目を見た。

少女が本の一節をそらで唱えると、柊木も同じ言葉を重ねた。二人の声だけで、騒がしかった児童室が静かになった。何度も補修された、小さな青い鳥の物語だった。

「この本を読みに来る子もいます」

「絶版の本に予算は使えません。ボランティアは運営に口を出さないで」

配信が始まった。派手な声と効果音に、子どもたちは落ち着かない。配信者が題名を読み間違えても、責任者は再生数の数字ばかり見ていた。

一人の少女が柊木のそばへ来て、「青い鳥の続きは?」と尋ねた。柊木は廊下で小声の続きを語った。いつの間にか、子どもたちは全員そこへ集まっていた。

責任者は配信を止め、柊木に退館を命じた。

そのとき正面玄関から、市長、出版社社長、文化振興財団の理事たちが入ってきた。市長は青い鳥の本を見て微笑む。

「先生、初版本をまだお持ちだったのですね」

責任者が聞き返すと、出版社社長が答えた。

「世界三十か国で刊行された絵本作家・森ノ灯、その本人が柊木瑞穂先生です。新館建設費の全額を匿名で寄付されました」

市長は新しい図書館の設計図を広げた。

「本日、柊木先生が初代名誉館長に就任されます」

柊木は閉じられた本を開き直した。

「最初の仕事は、この子たちが選ぶ続きを最後まで読むことです」