防犯地図
赤い丸は、守るべき家につける。
町内会の防犯地図を任されて三年になる。空き巣が入った家、夜道の暗い場所、見通しの悪い交差点。情報を一枚に集め、月に一度の見回りで使う。高齢者には大きな文字の版を配り、子ども会には危険な路地だけを抜き出した。地図のおかげで安心だ、と何度も礼を言われた。
今月は赤い丸が七つ増えた。
角の平屋は、老夫婦が来週から旅行へ出る。公園裏の家は、二階の窓の鍵が壊れたまま。新しい集合住宅の一〇二号室は、住人が夜勤で午前二時まで戻らない。
私は聞き取りの内容を丁寧に書き込んだ。
会合で地図を広げると、副会長が首をかしげた。
「犬のいる家には、丸がありませんね」
「吠え声が抑止になるからです。危険度が低い」
私は答えた。実際、赤い丸の家には犬がいない。猫は二匹いるが、窓辺からこちらを見ているだけだ。
次に、見回りの順路を青い線で引く。商店街から神社へ抜け、川沿いを回って公民館へ戻る。一見すると効率のいい円だ。
若い役員が、線の切れている路地を指した。
「ここ、街灯が二本とも故障しています。むしろ通ったほうがよくないですか」
「暗い場所は危険です。二人一組でも避けましょう」
役員たちは納得し、印刷用の地図を私に預けた。
会合のあと、一人で公民館に残る。蛍光灯を半分消し、地図の上へ透明な紙を重ねた。赤い丸、青い順路、交番の位置、防犯カメラの向き。町の夜が、色の記号だけになる。
机の引き出しには、昨年までの地図が入っている。赤い丸の横には、小さな黒い点が一つずつ増えていた。警察が公表していない被害額も、私だけの字で記録してある。
時計が九時を打つ。今夜の見回りは十時から。青い線の上を、腕章をつけた住民が歩く。
私は赤い丸の一つ、公園裏の家へ向かう準備をした。
この地図は家を守るためではない。犬のいない標的と、見回りが決して通らない時間を、空き巣の私に教えるためのものだった。
今夜つける黒い点の場所は、もう決まっている。