雪かきの私
雪国の古い通りで、老女は毎朝いちばんに外へ出た。
自宅前だけでなく、隣の空き家、バス停、独り暮らしの老人の門まで雪をかいた。
亡き夫がしていた仕事を、自分が引き継いだつもりだった。
ある朝、二本の雪かき道具を門の前で交差させると、同じ防寒着の老女が現れた。
屋根へ日が差すまで、もう一人の自分が雪かきを代わり、本物は道具へ触れられない。
本物は窓から見ていた。
代役は力強く、休まず道を広げる。
近所の人たちが次々に声をかけた。
「毎朝すみません」
「この人、頼んでも休まないから」
「腰、去年から悪いでしょう」
老女は、自分が感謝されていると思っていた。
実際には皆、感謝と同じくらい心配し、止められないことに困っていた。
若い家族の父親がスコップを持って出てきた。
代役は、
「大丈夫」
と断る。
それは本物の口癖だった。
父親は引き下がらず、
「大丈夫な人に頼んでるんじゃない。私もこの道を使うから、自分の分をやります」
と言った。
別の家から中学生が出て、バス停を担当した。
独り暮らしの老人は雪を運べない代わりに、温かい茶を用意した。
代役の仕事が少しずつ奪われていく。
本物の老女は、夫との思い出まで取られるようで寂しくなった。
夫は雪の日、
「俺の道だから」
と言っていた。
自分も同じ言葉で、町から役目を一人占めしていたのかもしれない。
屋根へ日が差し、代役が消えた。
老女は外へ出た。
皆が作業を終え、道具を片づけている。
「私の仕事がない」
老女が言うと、中学生がバス停の端を指した。
「そこ、曲がってる」
老女は笑い、最後の一筋だけ整えた。
その冬から、雪かき表を回覧板へ付けた。
できる人が、できる場所を担当する。
老女は朝一番の見回り役。
腰が痛い日は、赤い印を付けて休む。
交差させた道具から代役は二度と現れなかった。
夫の役目を手放したわけではない。
夫が守った道を、町の人へ返したのだ。
雪の日の通りには、以前より多くの足跡が付いた。
一人がきれいにした道より、皆が少しずつ掘った道の方が、老女には温かく見えた。