雪を乗せない三角屋根
山岳街道の宿は、毎冬屋根が潰れた。雪を受け止める緩い屋根を丈夫にしようと、梁を太くするほど重くなり、今年も初雪で食堂の天井が指三本下がった。
宿主に雇われた建築士ミザリは、梁ではなく屋根の角度を見た。
「雪に耐えるより、乗せなければいい」
彼女は同じ板で二つの小屋模型を作った。一つは従来の緩い勾配、もう一つは尖るほど急な勾配。湿らせた羊毛を雪と同じ重さにして、上から同量ずつ載せる。
緩い屋根には羊毛が十袋分積もり、中央がたわんだ。
急な屋根では三袋目から塊が滑り落ち、最後まで残ったのは軒際の薄い一層だけだった。
宿主は食堂棟の屋根を、使える梁を残したまま急勾配に組み直した。翌晩、本物の吹雪が街道を塞ぐ。朝、隣の倉庫には背丈ほど雪が載っていたが、食堂屋根は黒い板が見え、軒下に落ちた雪の山だけが高かった。
天井に付けた墨線は一ミリも下がらない。暖炉へ入る薪も、補強梁を乾かすために使っていた昨年の半分で済んだ。宿は閉めずに百人の旅人を泊められた。
街道管理官が吹雪を避けて宿へ入り、無傷の天井を見上げた。
「峠の宿と詰所、四十六棟が同じ悩みを抱えている」
宿の大工たちは、急な屋根では風に弱いと心配した。ミザリは既存の梁を増やさず、接合部を確かめたうえで角度だけを変えた。吹雪の夜、風速を測る旗は昨年と同じ位置まで裂けたが、屋根は低く唸るだけだった。
真夜中、積もった雪が一度に滑り落ち、大きな音で客たちが目を覚ました。宿主が外へ出ると、軒下の立入線の外へ雪が落ち、屋根面には新雪が薄く残るだけ。天井裏で梁に触れても、昨年のような曲がりはない。朝食時には食堂の全席を使え、補修のため客を追い出す必要もなかった。宿主は前年の休業損失百日分を思い出し、管理官が来る前から隣棟の改修を申し込んだ。
雪下ろしに雇っていた二十人も不要となり、宿主はその賃金を食料の備蓄へ回せた。
彼は雪害復旧金の発注札をミザリへ渡した。
「春を待たず、全部この角度に改修せよ。山岳建築官として採用する」