零点を命じた父兄席
王立学院の最終実技で、奨学生アニエラ・コルドの治癒魔法は、砕けた水晶鳥を完全に元へ戻した。
試験官が満点札を上げた瞬間、父兄席からレオバルト・ミュゼ公爵が立つ。
「その点を零にしろ。首席は私の息子だ」
公爵の息子が直した水晶鳥は、片翼がまだ欠けていた。だがレオバルトは試験壇へ上がり、採点板を奪う。
「学院の新講堂は誰の寄付で建った? 平民娘一人の将来と、公爵家の名誉。どちらが重いか考えろ」
試験官が拒むと、彼はアニエラの満点札を床で踏み割った。
「奨学金も家族の職も、今日で終わらせられる」
アニエラは泣かず、再採点申請書を差し出した。
「公爵閣下の異議として、変更理由をご記入ください」
「賢いな。従えば追放だけで済む」
レオバルトは〈公爵家子息を首席とするため、奨学生の満点を零点へ訂正。試験結果より家格を優先する〉と書き、署名した。採点板にも自分の魔力で零を刻む。
割れた満点札が空中へ浮いた。
王立試験の採点札は、破壊されると中央記録球へ原点数と破壊者を送る。さらに試験壇の水晶鳥は、修復過程を内側から記録していた。大広間の壁へ、アニエラの正確な術式と、公爵子息が見えないところで試験官補へ翼を直させた場面が映る。
「映像を止めろ!」
レオバルトが杖を向けた途端、学院長の隣にいた灰衣の男が王冠章を出した。王立教育監察官だった。寄付者による成績介入の噂を確かめるため、父兄席で最初から見ていたのである。
監察官は再採点申請書を読み上げた。家格を優先するという文言も、奨学金と家族の職を脅しに使った声も、署名時に記録されている。
アニエラが手を伸ばすと、修復された水晶鳥が掌に乗り、透明な翼を開いた。零点を刻まれた採点板の隣で、中央記録球には〈百点・首席〉が消えずに輝く。父兄席から起きた拍手は、公爵の怒声を完全に飲み込んだ。
監察官は近衛学院警備隊へ命じた。
「レオバルト・ミュゼ。国家試験への不正介入、脅迫および記録破壊未遂の容疑により、直ちに拘束せよ」