面会票には友人と
病院の面会終了まで、あと十二分だった。
宮前睦実は受付の記入台で、白河惣一の名前の横に「友人」と書いた。睦実が離婚してから、母はその事実を親戚に伏せ続けている。「一度失敗したなら、次は慎重に」が口癖で、元夫のことはいまだに名字で呼ぶ。
惣一とは離婚後に知り合った。母の入院中、仕事帰りに食事を届け、洗濯物を運ぶのを手伝ってくれた。睦実は彼が好きだった。けれど好きと言えない。家族に紹介すれば、惣一まで「次の結婚候補」として採点される。自分の離婚の汚名を消すために連れてきたように見えるのも嫌だった。
母は離婚届を出した日、睦実を抱きしめるより先に、近所へ何と説明するかを聞いた。それ以来、睦実は新しい幸せを見せることさえ、失敗を取り返す発表のように感じた。惣一の穏やかさを母への反論材料にするのも、前の夫より優れていると並べるのも嫌だった。病室の白い扉は、実家の玄関より重く見えた。
病室の前で、睦実は惣一から紙袋だけを受け取った。
「ここで待ってて」
「また?」
「家族の話だから」
「俺が入ると困る?」
「母が余計なこと言うから」
惣一は廊下の時計を見た。あと九分。
「睦実は、俺を守ってるつもり?」
「家族の話に巻き込みたくないだけ」
「それ、いつまで続くの」
廊下は病室まで一直線だった。看護師が面会者へ退室を促し始める。
「私がまた誰かを選んだって知られたら、母は失敗しない人かどうか見る。あなたを前の人と比べる。そんな場所に立たせたくない」
惣一は面会票を指した。
「友人でいい。今は。でも、睦実が俺のことを隠したいのか、守りたいのかは、俺にも決めさせて」
病室の中から母が「どなたか来てるの」と声をかけた。
睦実は反射的に「友達」と答えかけ、止まった。
「家族の話だから」
三度目の言葉を、扉を開けながら言い直す。
「今日は隣で聞いて」
惣一を病室へ招き入れたあと、睦実は受付へ戻った。面会票の続柄は友人のままにし、緊急時連絡先の空欄へ彼の番号を書いた。