魔王軍が門前で眠った夜
人間の参謀バシロを「臆病な休憩係」と魔王軍から追放した翌日、魔将クォルダは国境砦へ総攻撃を命じた。
第一軍も第二軍も飛竜隊も、最初の角笛で一斉に走った。
魔物たちは日没まで門を殴り続けた。門にはひびが入ったが、交代命令はない。自分だけ休めば臆病者と見られるため、誰も下がらなかった。
真夜中、砦から反撃の鐘が鳴る。
門が開いた時、魔王軍の前列は剣を持ったまま眠りかけていた。飛竜は魔力切れで地面を歩き、巨人は棍棒にもたれている。砦兵は一度押しただけで、魔物の列を丘の下まで退かせた。
「あと一刻攻めれば門は落ちた!」
クォルダは吠えた。
だからこそ、バシロは三軍を交代させていた。門を休ませず、兵だけを休ませる。攻撃が弱く見える時間も、次の一撃を残すための作戦だった。
魔将は彼の交代表を「人間臭い甘さ」と燃やしていた。
砦兵は追撃せず、城壁の上から毛布を投げた。眠り込んだ魔物を生け捕りにするためだ。魔王軍は死者より捕虜を多く出し、翌朝には巨人まで縄で数珠つなぎにされた。全力を一度に出したため、撤退に使う力さえ残っていなかった。
クォルダは焼け残った交代表を踏みつけた。そこには攻撃時間より休息時間の方が細かく書かれている。勝つために休ませていた男を、戦う気がないと追い出した。その判断だけは、砦兵の反撃より痛かった。
その頃バシロは、攻められた砦の隣町で住民の夜警を組み直していた。
「一晩中起きる者を作らないでください。二刻ごとに交代すれば、夜明けにも目が開いています」
町人の半分は眠り、半分は見張った。朝まで警報の見落としはなく、避難路も塞がれなかった。領主ミレオナは、敵軍にいた男へ町防衛参謀の鍵を渡した。
「休ませることを敗北と思わない人に、壁を任せたい」
日の出後、黒い蝙蝠が飛来した。クォルダの血文字で、今すぐ戻れば処刑を取り消し、副将にするとある。
バシロは町の鍵で手紙を押さえた。
「魔王軍との軍務契約は、追放令が出た時点で終了しています」