鳴らなかった七つ目の料金所
街道開通の祝宴で、バスティアン侯爵令息は銀の料金箱を蹴った。
「七つの料金所から集めた通行税のうち、七つ目だけ国庫へ届いていない。街道会計官リュシエンヌが横領した。婚約を破棄する」
箱の中は空だった。旅商人たちが集まる場での告発に、ざわめきが走る。
リュシエンヌは山道を何度も歩き、馬車が転ばぬ勾配へ設計を直してきた。開通を急がせるバスティアンと衝突したため、彼女には「街道を止めて予算を食う女」という噂がある。その噂と空箱は、群衆にはよく似合って見えた。
リュシエンヌは壁に掛かった七つの小鐘を見た。六つは旅の埃でくすみ、七つ目だけが飾り物のように綺麗だった。その不自然さは、空箱より雄弁だった。
「七つ目でも、本当に徴税されたのですね」
「記録では百台分だ」
「では、鐘を下ろしてください」
街道侯オズリックが七連鐘を外し、卓上へ置いた。各料金所の箱が開くたび、対応する鐘の内部へ一筋の銀線が増える。入金回数を偽れない、街道全体で一つしかない会計具だ。
六つの鐘には、何重もの銀線が光った。
七つ目は、曇ったままだった。
徴税そのものが一度も行われていない。百台分の架空収入を作り、消えた金をリュシエンヌへ被せたのだ。七つ目の料金所の所有者は、バスティアンだった。
「開通が遅れただけだ」と彼は言う。「将来の収入を先に計上した。会計上の工夫だ」
「存在しない金を盗んだ罪で、私を裁こうとした工夫ですね」
リュシエンヌは七つ目の鐘を一度だけ指で叩いた。音は鳴らなかった。
バスティアンは慌てて続ける。
「婚約破棄は撤回する。お前が帳簿を整えれば、誰も困らない」
「私が整えるのは街道です。あなたの嘘ではありません」
彼女は婚約指輪を空の料金箱へ落とし、背を向けた。
オズリックは新街道の地図を持ったまま、出入口で手を差し出していた。八つ目の料金所を作るか、無料区間にするか、彼女と対等に決めるための手だった。
リュシエンヌは鳴らない鐘を後ろに残し、その手を取った。