うさぎ係の真実
石動咲耶と彼は、飼育小屋の交換日記を一日おきに書いていた。
月水金が咲耶、火木が彼。
内容は、白いうさぎの食欲、飲んだ水の量、床材の汚れ。先生に見せる記録だから、最初は真面目だった。
――にんじん半分。異常なし。
――水百五十ミリリットル。異常なし。
やがて余白が増えた。
――月曜のにんじん、大きすぎ。
――そちらの水の量、目分量では?
――うさぎより細かい。
――うさぎは文句を言わない。
ある木曜日、日記に大きく書かれていた。
――脱走。異常あり。
咲耶は放課後、飼育小屋へ走った。
扉の留め金が外れ、白いうさぎがいない。彼は校庭を探していた。二人で植え込み、体育倉庫の裏、花壇の下を回った。
「火曜、閉め方が甘かったんじゃない?」
「水曜の担当はそっち」
「木曜に逃げた」
「いつ逃げたかわからない」
「責任を日付で分けるな」
言い争いながら、昇降口まで来た。
靴箱の下から、白い耳が見えた。
二人は同時にしゃがみ、額をぶつけた。
うさぎは驚いて奥へ逃げる。
「咲耶、右」
「名前で指示しないで」
「交換日記には書いてる」
「名字だけ」
「今そこ?」
上履きを何足もどかし、ようやく捕まえた。うさぎは咲耶の腕の中で平然と鼻を動かしている。
飼育小屋へ戻り、留め金を針金で補強した。
日記を開く。
咲耶が書く。
――午後四時二十分、昇降口で発見。
――原因、扉の留め金の劣化。
――担当者双方に責任あり。
彼が横から鉛筆を取った。
――追記。石動咲耶は捜索中、七回こちらのせいにした。
――追記への反論。そちらは八回私のせいにした。
――うさぎは一度も反省していない。
二人で笑った。
翌朝、先生が日記を読み、最後へ赤字で書いた。
――飼育記録に私情を書かないこと。
その下へ、彼が小さく返した。
――私情ではなく事実です。
咲耶はさらに書いた。
――異常なし。
うさぎは三年間で一度しか逃げなかった。
けれど咲耶が交換日記を読み返すと、餌の量より、二人が何回責任を押しつけ合ったかのほうが詳しく残っている。
最後の当番の日、日記の表紙には白い毛が一本挟まっていた。
咲耶は取らずに頁を閉じた。
それも、異常なしということにした。