こたつの真ん中のみかん

 瀬名正志と姉の香苗は、実家のこたつで向かい合っていた。

 両親が小さな家へ移ることになり、二人で荷物を整理しに来たのだ。

 朝から食器、古着、写真を分け、昼には会話が減っていた。

 こたつの中央には、みかんが一つだけ残っていた。

「食べる?」

 香苗が訊く。

「いらない」

「私も」

 二人とも手を伸ばさない。

 押入れから、子どもの頃のすごろくが出てきた。

 盤の端は破れ、駒は一つ足りない。

「これ、捨てる?」

「もうやらないでしょう」

「じゃあ捨てる」

 香苗が袋へ入れかけると、正志はなぜか止めた。

「一回だけやってから」

「二人で?」

「終わるか確認」

 駒の代わりに、みかんの房を一つずつ使った。

 サイコロを振り、こたつの上を進む。

〈靴下を片方なくして一回休み〉

〈雪の日に転んで二マス戻る〉

 昔の出来事を元にしたマスに、二人は何度も笑った。

「これ、父さんが書いた字だ」

「妙にきれい」

「私たちの失敗を楽しんでる」

 ゲームが半分まで進んだところで、みかんの駒が乾いてきた。

「食べながら進む?」

「それだと駒がなくなる」

「ゴールした人が食べる」

 二人は急に本気になった。

 正志が先に上がり、中央に残ったみかんを剥いた。

 皮が弾けると、甘酸っぱい香りがこたつの中へ広がる。

「半分あげる」

「勝った人の分でしょう」

「一個丸ごとは多い」

 房を分けると、手のひらが少し冷たくなった。

 午後、両親が戻ってきた。

 捨てるものの袋は思ったほど増えていない。

「すごろく、持って帰るの?」

 母が訊く。

 香苗と正志は顔を見合わせた。

「こたつと一緒に」

「こたつは新しい家へ持っていくよ」

「じゃあ、またそこでやる」

 帰る前、母が箱から新しいみかんを二つ出した。

 正志は一つを姉へ渡し、一つを自分の鞄へ入れる。

 実家の部屋は少し空いたが、畳にはこたつの温度が残っていた。

 剥いた皮の香りも、古いすごろくの折り目も、捨てるか残すかだけでは分けられない。

 冬の日は、みかん一つぶんの時間を二人で分けると、思ったより長く温かかった。