ふとんの四隅

母は、父の布団を居間へ敷いてほしいと言った。

「今夜だけでも、椅子で寝かせないで」

徳永紫月が実家へ戻ると、父は母のベッド脇の木椅子で眠っていた。背中を丸め、腕を組んだまま、浅い息を立てている。ここ三日、ずっとその椅子から離れていない。

母の呼吸も細かった。訪問看護師は、今夜が長くなると言って帰った。

「お父さん、布団へ行かないと思うよ」

「行くかどうかは、敷いてから決めればいい」

母は目を開けずに答えた。

押し入れの上段に、客用の布団一式があった。紫月は脚立へ乗り、掛け布団を引き出した。圧縮袋の空気が戻り、白い布が腕の中で膨らむ。防虫剤の匂いが強く、窓を少し開けた。

下から父が目を覚ましかけたが、母が「寝てて」と言うと、また目を閉じた。父は旅行先でも枕が変わると眠れず、客用布団を嫌っていた。その父が三晩も木椅子で眠れたのは、疲れではなく、母の呼吸を聞き逃したくなかったからだろう。

居間には医療用品の箱と、酸素の管と、父の読みかけの新聞が広がっていた。布団を敷く場所がない。紫月は箱を壁際へ寄せ、新聞を折り、椅子の下に転がったスリッパをそろえた。

敷布団を広げると、端が母のベッドへ触れた。少し離せば通路が狭くなる。紫月は何度も持ち上げ、床の板目に沿わせた。

酸素の管を踏まないよう、布団の角を折ろうとすると、母が「狭くなる」と止めた。紫月は管のほうを壁際へ寄せ、養生テープで床へ留めた。

「近くていい」

母の声がした。

紫月は敷布団をベッドのすぐ横へ置いた。新しいシーツをかける。角へ手を入れ、ゴムを引っかけるが、反対側が外れる。母は昔、四隅を対角線の順につけていた。右上、左下、左上、右下。

その順番でやると、シーツはしわなく張った。

枕には父が普段使う薄いタオルを巻いた。掛け布団を半分めくり、すぐ入れる形にする。父はまだ椅子にいる。母も何も言わない。

紫月は布団の四隅を一つずつ手のひらで押さえた。最後の右下が床へ平らに落ち着いたところで、手を離した。