ほどいた糸

手芸仲間の展示会から、私の名前だけが外された。

四人の作品を何年も仕上げてきた私に、招待状すら届かなかった。絹は玉留めが大きく、深雪は配色を間違える。搬入前夜には全員の作品を私の部屋へ集め、眠る間に直してやるのが恒例だった。

会場へ行くと、絹の白いショールから糸が一本浮いていた。照明の下で銀色に揺れ、私だけへ助けを求めているように見えた。私は反射的に小ばさみを出したが、係員に手を止められた。作品に触れるなという。以前なら、絹本人が私へ直してと頼んだのに。

もう一つ妙なのは、展示台の裏に小さなカメラが置かれていたことだ。盗難対策にしては、針先まで映る向きだった。さらに作品カードには、これまで必ず入れていた《仕上げ協力・牧野乃愛》の一行がない。図録にも私の名前はなく、三人は失敗した縫い目まで自分の作品として撮らせていた。私の手を消せば、未完成に戻るだけなのに。

仲間たちは奥から現れ、昨年の映像を見せた。映像は一日分ではなかった。三年前から、糸が切れる前夜には必ず私が一人で作業台へ近づいている。私が修復を申し出るたび、同じ場所に小さな傷が増えていた。

搬入前夜、私が絹の刺繍糸を半分だけ切り、別の友人のバッグへ薄い染料を垂らしている。翌朝、私は誰より早く傷を見つけ、その場で修復して拍手を受けた。

壊したのではない。弱い部分を先に見つけるため、少し負荷をかけただけだ。染料も洗えば落ちる量にしたし、糸は私なら直せる長さで切った。失敗したまま褒められれば、皆は上達しない。直せない作品を出して恥をかくより、私に救われたほうが皆も安心する。

「だから毎回、乃愛がいないと完成しなかったんだ」

絹は初めて、自分で縫い直した跡を見せた。少し歪んでいたが、三人はそれを残すと決めたという。完璧より、私の手が入らないことを選んだのだ。

係員が私の小ばさみを預かり、会場の外へ案内した。

ガラス越しに白いショールを見返す。

ガラスの向こうで、まだ私にしか見えない一本の糸が、切られるのを待っていた。