もう一周しない夜

越智柚羽は、十二分四十秒の動画を、最初から七回見ていた。

会社の採用説明会で流す映像。字幕の誤字、音量の差、社員の名札の見え方。修正するたび、変更した箇所だけではなく、必ず冒頭から再生した。直したことで別の場所が崩れているかもしれないからだ。

時計は午前一時二十六分。

最後の確認で、九分十五秒の字幕に句点が一つ抜けているのを見つけた。柚羽は句点を足し、書き出しボタンへ手を伸ばした。

けれど、変更後の全編をまだ見ていない。

動画編集ソフトの再生位置をゼロへ戻す。十二分四十秒なら、あと一回見ても二時前に終わる。もし何か見つかれば、そこからまた確認が必要になる。それでも、見落としたまま提出するよりはいい。

再生が始まり、聞き慣れた社長の挨拶が流れた。

柚羽は内容をもう覚えていた。三分二秒で音楽が小さくなり、五分四十秒で画面が切り替わる。六分台の社員は一度言いよどむが、本人の希望で残してある。知っているのに、目を離せない。

二分を過ぎたところで、柚羽のまぶたが落ちた。巻き戻して見直す。今の十秒を見ていない。確認は正しく行わなければ意味がない。

再び冒頭へ戻そうとして、手が止まった。

句点を足したのは九分十五秒だけだ。字幕の一文字を直したことで、社長の挨拶も音楽も変わらない。頭では分かっている。それでも「全部」を見なければ、責任を果たしていない気がしていた。

柚羽は再生を停止した。

九分十分から九分二十秒までだけを見直す。句点は表示され、文字切れもない。そこから先へ再生せず、書き出しを実行した。

進捗バーが伸びるあいだ、柚羽は何度もキャンセルへカーソルを寄せた。全編確認をしないデータを提出するのは初めてだった。

完成したファイルを共有フォルダへ置く。メモ欄には「字幕修正済み」とだけ書いた。「七回確認済み」とは書かなかった。

パソコンを閉じると、部屋が急に静かになった。完璧な動画になった確信はない。明日、何か指摘される可能性もある。

柚羽はイヤホンを外し、もう一周だけという言葉を口にしなかった。十二分四十秒ぶん早い暗闇の中で、ベッドへ向かった。