エンドロールにいない人

〈裏方彗星〉の解散ライブでは、最後の曲と同時に全スタッフの名前が流れるはずだった。

ボーカルの小田巻環は、リハーサルで一人だけ欠けていることに気づいた。照明助手の針生。十年間、ケーブルを巻き、壊れた機材を直し、環が歌詞に詰まると誰より早く仮の言葉を置いた人だ。実際、ヒット曲の半分は彼のメモから生まれた。それでも契約上は「雑務」で、作詞印税も名前も与えられなかった。

解散発表の翌日、針生は退職し、連絡がつかなくなった。

最後の曲〈流星名簿〉が始まる。

「見つけて」

イントロで、白いスタッフロールが天井へ昇る。Aメロでは、衣装、運搬、清掃、警備の名が続く。針生の位置だけ、一行分の黒い空白になっていた。

環が歌うと、その空白から短いノイズが返った。四小節ごとに周波数が変わる。ギター担当が即興で同じ音をなぞると、スクリーンの文字列が乱れ、過去曲の制作履歴が開いた。

「見つけて」

サビで、針生のメモ画像が次々に映る。サビの語尾、転調の案、ステージ構成。会社は彼の端末を初期化し、メンバーの名義へ移していた。さらに最後のファイルには、吊り照明の安全検査を偽装した報告書があった。針生は解散ライブで事故が起きると訴え、口止めのため会場から追い出されていた。

その瞬間、頭上で金属が軋んだ。

針生のノイズは作詞クレジットを求める暗号ではない。吊り照明の共振周波数を示していた。環たちは演奏を続けたまま、指示どおり半音ずつ下げる。共振が弱まり、落下寸前のトラスが揺れを止めた。観客は係員に誘導され、静かに退場していく。

最後の一音で、会場外の中継画面へ針生が現れた。彼は警察署から、安全偽装の証拠を送信していた。失踪したのではなく、会社に居場所を知られないよう保護されていたのだ。

エンドロールの空白へ、彼の本名と〈作詞・安全設計〉が入る。

環は無人になりつつある客席へ歌った。

「見つけて」

消えた一人を捜し出してほしいという願いではない。皆の目の前にあった曲と舞台の中から、ずっと見えないことにされていた仕事を見つけ直せという要求だった。