コンビニ前の指定席
夜八時のコンビニ前だけ、私たちは同級生だった。
学校では話さない。
彼は進学クラスの優等生。私は家の弁当店を手伝うため、放課後すぐ帰る。教室では席も友達も遠かった。
けれど店の片づけが終わるころ、彼は塾帰りにコンビニへ来た。
私は肉まん。彼はあんまん。
店先の室外機横が、いつの間にか指定席になった。
「今日、居眠りしてたね」
「見てたの?」
「先生に当てられてたから」
「起こしてよ」
「学校では話さない契約」
契約などした覚えはない。
彼は学校では完璧に見えたが、夜は模試の判定に文句を言い、親から医学部を勧められていることをぼやいた。
私は弁当店を継ぐと思われているが、卒業後は町を出たかった。
「昼の私たち、他人みたい」
ある夜、私が言った。
「他人じゃないの?」
「肉まんの好み知ってる他人いる?」
「いるかも」
「いない」
彼はあんまんを二つに割った。
「交換」
私の肉まんと半分ずつにした。
甘い餡と肉の餡を交互に食べる。
「学校でも話す?」
彼が聞いた。
私はすぐ答えられなかった。
昼の教室で話せば、友達に理由を聞かれる。家のことや夜の時間まで説明する必要がある気がした。
「挨拶だけ」
「段階的」
「優等生っぽい」
「弁当屋っぽい挨拶って何」
翌朝、昇降口で彼と会った。
私は小さく「おはよう」と言った。
彼は少し驚き、同じ声量で返した。
それだけだった。
次の日は、廊下ですれ違うときに「眠い」と言った。
その次は、昼休みに消しゴムを借りた。
夜の指定席だけだった関係が、少しずつ昼へ広がった。
冬の終わり、彼は医学部ではなく、工学部を志望すると家族へ話した。私は県外の学校の資料を取り寄せた。
「町を出たら、指定席なくなるね」
私が言うと、彼はコンビニの明かりを見た。
「場所が指定なんじゃなくて、時間が指定だったのかも」
「じゃあ、八時ならどこでも?」
「試す?」
卒業後、私たちは別の町へ進んだ。
夜八時になると、どちらかがコンビニの写真を送った。
肉まんとあんまんを半分にできない日は、画面越しに同時に食べた。