スポンサーを剥がした瞬間

《津守リク、スポンサー契約を破った裏切り者》

《企業装備で稼いだくせにロゴを剥がすとか》

《工員救助を口実にまた告発配信?》

 契約坑道では、扉に値札が付いていた。

 最深部の精錬工員十四人は、有毒魔力の漏出区画に閉じ込められている。非常扉は開かない。救助隊の端末には【上位契約者のみ通行可】の文字が点滅していた。

 津守リクの胸には、坑道を運営するグラント社の金色バッジがある。

 その会社こそ、救助配信を止めろと圧力をかけ、契約違反だと彼を炎上させた相手だった。契約解除ボタンは遠隔で封じられ、残された方法はバッジを物理的に壊すことだけだった。

《リクのランクなら一人だけ入れる》

《工員は下位IDだから連れ出せない》

《契約を守るなら見捨てるしかないぞ》

 リクは胸のバッジをつかみ、一度だけ引き剥がした。

 金具が床へ落ちる。

 同時に、坑道中の扉から企業ロゴが消えた。認証灯は赤から白へ変わり、最深部まで一直線に開いていく。工員たちの首輪型IDも、乾いた音を立てて外れた。

 リクの技能《無所属》。自分が所属権を捨てた瞬間、その場にある所有・階級・会員制の魔法を一度だけ無効化する。恩恵も報酬も同時に失う、解除不能の能力だ。

《全ロック解放》

《工員十四人の契約拘束も解除された》

《社内文書流出:非常扉に課金認証を残す決定、役員署名あり》

《リクの違約金、推定二億》

 リクは開いた扉を駆け抜け、工員たちを外へ導く。

 最後に出てきた老工員が、床のバッジを拾おうとした。リクはそれを靴先で止める。

「もう要りません」

「二億だぞ」

「十四人より安い」

 毒区画の隔壁が閉まり、全員の生存表示が緑に変わった。

 コメント欄に、契約違反という言葉はもう流れない。代わりに、違反していたのは誰かを示す資料番号が並んでいく。

《監督庁がグラント社の運営権停止》

《十四人全員生還、後遺症なし》

《リクの告発資料、改ざんなしと認定》

《公式通知きた》

 剥がされた金色バッジの代わりに、画面へ白い紋章が灯った。

【国家救難局公式認定――津守リク《無所属救助官・第一号》】