ゼロ人の少数派
八代碧は、四人を二人ずつ第一室と第二室へ押し込んだ。
第三室には誰も入れない。
《制限時間までに三室のいずれかへ入れ。最も人数の少ない一室を焼却する》
それが唯一の規則だった。
第一室に碧と磯貝鞠。第二室に神林拓路と土御門晴。人数は二、二、〇。
各室の入口には同じ重量センサーがあり、無人でも表示は《0》になる。故障記号や除外表示ではない。碧は入室直後から、ゼロも正式な人数として集計盤に載っているのを見ていた。
「第三室が空だと、残った二室のどちらかを少数とみなされるぞ」
拓路が透明扉越しに叫ぶ。
「最も少ないのはゼロよ」
「部屋を焼くんじゃない。中の人間を殺すゲームだ。無人室を選ぶわけがない」
「主催者の目的と、文章の動作は別」
残り十五秒。晴が第二室から第三室へ移ろうとした。碧は声を張る。
「入った瞬間、第三室は一人。第一と第二が二、一、一になって、最少が二室へ増える。引き分けの処理は書かれていない。今だけが、最少の一室を確定できる形よ」
晴は境界で止まった。
鞠が碧へ問う。「四人を一室へ集めた方が安全じゃないの?」
「残り二室が零、零になる。『最も少ない一室』が二つになる。機械が両方を焼くだけなら無人だからいいけど、規則矛盾で全室焼却へ回る可能性もある。二、二、〇なら最少は第三室だけ」
終了音。三枚の扉が閉じる。
《第一室、二名》
《第二室、二名》
《第三室、零名》
《焼却対象、第三室》
無人の第三室が白い炎に包まれた。耐熱ガラスの向こうで、空の椅子だけが崩れていく。四人の首輪は一度も赤くならなかった。
やがて第一、第二室のロックが同時に外れた。二組は熱気の残る中央通路で合流した。
主催者の声が掠れる。
《少数派を一人も作らない選択は、想定されていない》
「三つの部屋を用意した時点で、ゼロ人という人数を用意したのと同じよ」
碧は熱で曇った第三室のガラスへ、指で大きな〇を描いた。
「多数決で最も弱い少数派は、一人じゃない。誰もいない場所だ」