ミミック端末を初期化します
《誰かのスマホが勝手に配信してる?》
《画面の端末、歯が生えてないか》
《宇佐見凛子の骨董店でミミック百体とか宣伝映像だろ》
商品棚に紛れた端末型ミミックが配信アプリを複製し、噛んだ拍子に生放送を始めた。
宇佐見凛子はその画面を覗き込み、ため息をつく。店内では同じ端末が床、壁、天井から次々と生え、客六人を充電ケーブルの舌で吊り上げていた。
《複製母機》を一体でも壊せば、保存された個体情報から二体に増える。すでに百二十八台。討伐隊は店の外で手を出せずにいる。
増殖のたび、端末は店の商品データまで写し取っていた。名刀の姿をした充電器、宝石箱のふりをする画面が棚を埋め、どれも本物そっくりに客の声で助けを求める。凛子は悲鳴ではなく、古物台帳に一度しか記載されていない製造番号を探した。
《破壊禁止、通信遮断も増殖条件》
《どれが母機か外見では判別不能》
《骨董商が設定画面を触ってどうする》
凛子は最初に配信を始めた一台を拾った。
牙が指へ食い込む前に、画面の隅へ浮かぶ小さな歯車を押す。
「複製品は、元へまとめてお返しします」
彼女は【工場出荷状態へ戻す】を一度だけタップした。
店中の端末が一斉に震えた。
百二十七台が光の粒となり、手元の一台へ吸い込まれる。吊られていた客は床へ降り、壁も棚も元通りになる。最後に残った母機は、牙も脚も消えた黒い板となって再起動画面を映した。
【ようこそ。言語を選択してください】
《迷宮生物に初期化画面が効いた?》
《技能《真贋回帰》:鑑定済みの複製物を原型一つへ統合》
《個体ログ百二十八件が一件に圧縮》
《客六名、全員無傷!》
凛子は黒い板へ値札を付けた。
「由来不明、動作不安定。販売はできませんね」
《売る選択肢があったのか》
《宣伝映像ではなく商品事故処理》
《ミミック側が中古品にされた》
救出された六人のうち、値切り交渉で凛子を素人扱いした鑑定士が、黒い板へ最高級の封印札を貼った。表示された査定額は、それでもゼロのままだ。
《複製ログの欠番なし。百二十八体すべて統合》
《店外への感染端末ゼロ》
凛子は拍手を気にせず、噛まれた指の血が商品へ付かないよう布を巻いた。
迷宮取引委員会の公式収容記録が更新された。
【複製母機:危険度S】から、
【宇佐見骨董店保管品:査定額ゼロ】へ。
配信コメントは、その値下げを拍手で祝った。