レコードが回る三分

祖母は、孫娘の名を忘れる日が増えた。

家族は本人の前で、

「施設をどうする」

「一人にはできない」

と相談した。

祖母は聞いていないように窓を見ていた。

古いレコードを片づける日、祖母と孫娘が同時に針を載せた。

若い頃の祖母が好きだった曲が流れ、二人の魂が入れ替わった。

曲が終わるまでの三分間だけだった。

祖母の体に入った孫娘は、部屋が何度も違う場所に見えた。

窓の外は現在の庭なのに、机は少女時代の学校。

娘と孫の顔が、知っている人と知らない人の間を揺れる。

忘れているのではなく、記憶の扉が勝手に開閉し、どこへ戻ればよいか分からない状態だった。

孫娘の体に入った祖母は、家族の会話をはっきり聞いた。

「本人には難しい」

「もう分からないから」

皆が自分を思いやっている。

同時に、自分が部屋の家具のように扱われていることも分かった。

祖母は孫娘の口で言った。

「本人の前で、本人抜きの話をしないで」

家族が驚く。

孫娘の姿なので、孫娘が言ったと思った。

「おばあちゃんは、どうしたい?」

叔母が初めて尋ねた。

祖母は答えようとした。

だが孫娘の記憶の中にある選択肢と、自分の希望が混ざり、言葉が出ない。

家で暮らしたい。

一人は怖い。

知らない場所へ行きたくない。

家族を疲れさせたくない。

どれも本当だった。

「今日は決められない」

祖母は言った。

「明日も分からないかもしれない。でも、聞いて」

曲が終わり、二人は元へ戻った。

祖母は窓を見たまま、今の会話を覚えていないようだった。

孫娘は、入れ替わりを家族へ説明しなかった。

代わりに、相談のたび祖母へ短い質問を一つずつした。

「朝は一人がいい?」

「お風呂は家がいい?」

「見学へ行ってみる?」

答えは日によって変わった。

家族は、その揺れも本人の希望として記録した。

祖母は最終的に、小さな支援住宅へ移った。

自分で完全に選んだとは言えない。

けれど部屋のカーテンと椅子は本人が決めた。

レコードは新しい部屋へ持っていった。

再生しても、もう入れ替わらない。

曲の途中で祖母が孫娘を知らない人の名で呼ぶことがある。

孫娘は訂正するときも、しないときもある。

まず、

「今、隣にいてもいい?」

と尋ねる。

記憶の中へ入れなくても、現在の三分間を本人へ返すことはできた。