ログアウトしない四人目

三人制の競技ゲームでは、選手より一脚多くゲーミングチェアを置く。

四脚目は空のアカウントへ接続し、画面を客席へ背ける。各マップの開始前に、四脚目が一度だけキーを押す。Wなら攻撃、Sなら撤退、Escなら試合放棄。主将は入力に従う。無視して勝った場合、それまでの公式勝利はすべて削除される。

千々岩のチームは、決勝まで四脚目の指示に従ってきた。

Wが押されれば突入し、Sなら有利でも退いた。観客は不可解な判断に沸いたが、結果は勝利だった。スポンサーは「空席も戦力」と広告へ書いた。四脚目の背もたれには企業ロゴが最も大きく印刷され、元メンバーの名前があった場所には黒い布が縫いつけられている。配信画面では、その布だけがいつも少し遅れて揺れた。

その椅子は、半年前に辞めた元メンバーが使っていたものだった。四人制から三人制へ競技が変わったとき、千々岩は主将として彼を外した。実力ではなく、スポンサー受けと配信の数字で決めた。元メンバーは最後の通話で「お前が選んだなら仕方ない」と言い、アカウントを消した。

四脚目の右肘掛けには、元メンバーが緊張すると爪で削った溝が残っている。千々岩は試合前、その溝へ親指を当てる癖だけを引き継いだ。本人へ謝る方法は、引き継げなかった。

決勝の最終マップ。勝てば世界大会だった。

四脚目のEscキーが沈んだ。

会場がざわめいた。コーチは「故障扱いにできる」と耳元で言った。スポンサー担当は客席から首を振った。味方二人は千々岩を見た。ここまでの勝利が消えれば、賞金も契約も失う。

千々岩は試合開始ボタンへ手を置いた。

元メンバーなら、勝てと言うはずだと思った。そう考えること自体が、また他人の言葉を都合よく使うことだとも分かった。

彼はEscを押した。

画面に《試合放棄》が出た。続いて過去の戦績が一勝ずつ消えた。観客席の拍手も、実況の声も止まった。四脚目だけがゆっくり回り、初めて選手側を向いた。

撤収後、千々岩は空席のキーボードを外した。Escキーはなくなっていた。代わりに座面へ、元メンバーが貼っていた傷だらけの小さなステッカーがある。

四人の指を描いた絵のうち、一本だけが新しいインクで塗り直され、触れるとまだ乾いていなかった。