一人分の防災袋

珠生が防災袋を買おうと思ったのは、地震速報のあとだった。

揺れは小さかった。棚の瓶が一つ鳴っただけ。それでも、停電した部屋でスマートフォンの明かりを見つめているうちに、一人で避難所へ行く未来が急に近づいた。

通販サイトには二つの商品が並んでいた。

〈二人用・割引価格一万四千円〉

〈一人用・九千円〉

サイトの写真では、二人用の男女が笑って袋を持ち、一人用は商品だけが白い背景に置かれていた。珠生は、その撮り方にまで将来を決められるのが嫌だった。

二人用のほうが、一人あたりは安い。水も毛布も二つずつ入っている。いつか誰かと暮らすなら無駄にならない、と珠生は買い物かごへ入れた。

けれど商品説明を読むと、袋の重さは十二キロあった。珠生が一人で階段を下りるには重すぎる。

一人用は七キロ。足りないものを追加できる空きがある。

選択画面を前にして、珠生は迷った。二人用を買えば、未来を諦めていないように思える。一人用を選べば、この先も一人だと認めるみたいだった。

防災用品にまで予言をさせようとしている自分がおかしくなり、少し笑った。

珠生は二人用を削除し、一人用を選んだ。追加欄に、常用薬、眼鏡ケース、生理用品、小さなラジオを入れる。誰かの分ではなく、自分が実際に持って逃げられる重さを計算した。

最後に〈予備スペース〉の項目があった。

空けておくか、保存水を一本増やすか。

珠生は水を増やした。将来誰かが隣にいたら、その人の袋はその人と一緒に作ればいい。今いない誰かのために重くして、今いる自分が持てなくなるほうが困る。

届いた袋を背負うと、肩にずしりと食い込んだ。七キロでも軽くはない。珠生は玄関から階段まで一度歩き、戻ってから賞味期限を書いた札をつけた。

独身でいる不安は、非常食と一緒に収納できない。災害の日に一人かどうかもわからない。それでも今日、助けを待つ前に持ち出せる一袋を作った。

玄関脇に置いた袋には、〈一人用〉と印刷されている。珠生はラベルをはがさなかった。一人分を小さく見積もらず、その重さを自分の両肩で引き受ける印として。