一億ポイントの有効期限

美濃部家の祖父は、財布から赤いカードを取り出して息を引き取った。

最後の言葉は、

「一億ポイント……誰にも渡すな……」

孫の穂高はカードを握った。

「一億円相当なら、現金よりすごい」

叔母の史花が奪い返す。

「ポイントは相続できない場合がある。規約を確認するまで使わないで」

叔父はスマートフォンを出した。

「換金業者を探そう」

「“誰にも渡すな”を一分で破る気?」

「業者は人ではなく法人だ」

「法律以前に国語を学んで」

叔父はすでに分配案を作っていた。

「三千三百三十三万ずつ、余り一万は管理手数料として私が」

「勝手に管理者になるな」

「一億ポイントで家電を買って転売しよう」

「一度に使ったら店が潰れる」

「では商店街ごと買う」

「ポイントカードで発行元を買収する人、初めて見た」

カードには〈マル福共通カード〉とだけあり、店名も会員番号も薄れている。

三人は祖父の行きつけを巡った。

スーパーでは、

「当店の上限は十万ポイントです」

薬局では、

「そのカード、見たことがありません」

銭湯では、

「うちはスタンプ十個で牛乳一本です」

穂高は疑いを深めた。

「表向きは商店街カード、実態は暗号資産」

史花もうなずく。

「裏面のバーコードが秘密口座への鍵」

叔父が言う。

「切り分ければ三人で」

「バーコードを三等分したら誰も読めない!」

「では一億回、順番に使う」

「寿命が先に切れる!」

ようやく、駅裏の古いゲームセンターで店長がカードを見て声を上げた。

「懐かしい! 初代〈億万長者ポイント〉カードですよ」

「一億ありますか?」

「表示機で確認しましょう」

機械に通すと、画面に大きく〈100,000,000〉と出た。

三人は歓声を上げた。

「交換商品は?」

「最高額なら何を?」

「ゲーム機? 旅行券?」

「現金化の率は?」

店長は画面の隅を指した。

〈一億ポイントで、うまい棒一本〉

「この店、インフレ設定なんです」と店長。「一回遊ぶと五千万ポイント出ます」

さらに表示が切り替わった。

〈有効期限 昨日まで〉

祖父の一億は、誰にも渡らなかった。