一周遅れの王

嵯峨野エイルが闘技場を一周すると、中央の少年王の髪が白くなった。

《年代周回》

時計回りに一周:対象年齢を一年加算。

反時計回りに一周:対象年齢を一年減算。

制限時間内に王を老衰させれば討伐成功。攻略隊は時計回りに走り続け、少年を老人へ変えていた。

《王齢:78》

「あと二周だ!」

王は剣を支えられず、膝をつく。エイルは足を止めた。王冠の説明に、細い文字がある。

《戴冠年齢:八歳》

《呪縛開始:七歳》

倒すべき原因は、老いた先ではなく一年前にある。

エイルは反時計回りに走った。

「逆走するな!」

王齢が七十七、七十六と戻る。仲間が追う。エイルは内側の短い円を選び、一周ずつ過去へ近づいた。

七歳。

少年王の背後に黒い影が現れ、王冠を頭へ載せる。呪縛が始まった瞬間だ。

エイルはもう一周し、六歳へ戻す。王冠がまだ存在しない。黒い影だけが空中に取り残され、正体を現した。王国の時間を競技に変えた管理魔術師だった。

攻略隊の攻撃が影へ集中する。少年を老衰させる必要はない。

制限時間はゼロを越え、討伐記録は失格。それでも王は六歳の姿で母親NPCの腕へ戻った。

《少年王討伐失敗》

《対象年齢:六歳》

六歳へ戻った少年は、王としての記憶をほとんど失っていた。それでも白髪の老人だった時間の重さだけが、夢のように残っている。

「僕は何回、年を取ったの」

誰も答えられない。攻略回数だけで数千年になる。

エイルは闘技場の周回数をゼロへ戻さず、記念碑として残した。速い周回ほど高得点だった数字が、今度は一人の子供から奪った年数として表示される。

管理魔術師を倒した後、闘技場は走路ではなく遊び場へ改装された。

少年は走路を反時計回りに一周し、自分の年齢を五歳へ戻そうとした。もう年代周回は作動しない。彼は安心したように笑う。

これから年を取る速さは一日につき一日。世界記録にはならない、ごく普通の時間だった。

《呪縛開始前への到達を確認――最速で王を終わらせる競技から、王になる前の子供を取り戻す時間移動へ更新します》