一点だけの採点
オンラインのデザイン講座で、梅津由衣は受講生の最終課題に九十一点を付けた。
夜勤で働く二十六歳の受講生は、全十二回のうち、ライブ授業へ三回しか出ていない。録画を見て課題を提出し、質問は毎回、朝方の掲示板へ残していた。
運営責任者は採点表を見て言った。
「出席姿勢が悪いから、不合格にして。修了率より、教室へ参加する態度を見せないと」
評価基準には、企画二十点、操作三十点、課題解決四十点、振り返り十点とある。出席点はない。後輩講師は責任者の指示に従い、課題解決を四十点から十点へ下げようとしていた。
「基準にない減点はしないで。まず作品を見よう」
由衣は最終課題を開いた。公共施設の予約画面を改善する提案で、文字を大きくすると決定ボタンが画面外へ消える問題を見つけ、片手でも操作できる配置へ直している。テスト記録には、夜勤明けの同僚や高齢の母親に試してもらった結果が残っていた。操作につまずいた場所を赤い付箋で並べ、改善後に迷う時間が半分になったことまで測っている。ライブ授業へ出た別の受講生より、観察と修正の往復は多かった。欠席の数だけを見れば薄い三か月でも、作品の中には働きながら集めた時間が重なっていた。
責任者は鼻を鳴らした。
「作品だけ上手でも、仕事は時間を合わせるもの。企業に紹介しにくい」
由衣は掲示板の履歴を見せた。受講生は質問への返答後、ほかの人の課題にも丁寧な改善案を書いている。ライブにいない時間にも、講座へ参加していた。
彼女は九十一点を戻し、講評に〈制約のある利用者を観察し、手順へ落とし込めている〉と記した。後輩には、出席状況と作品評価を別の欄へ分ける新しい採点票を渡した。
受講生から、修了通知を受け取ったという短いメッセージが届いた。
〈夜勤を辞めなくても、次へ進めると思えました〉
由衣は責任者へ、次期講座を録画中心の非同期クラスとして担当したいと企画書を提出した。許可欄が返る前に、募集ページの担当者名へ自分の名前を入れた。