三台目の小さな灯り

花南は、眠れない夜ほど部屋の灯りを全部つけた。

 天井灯。台所。洗面所。玄関。明るければ、静かな部屋に置き去りにされない気がした。

 今夜はカーテンを洗うため、午前二時のコインランドリーへ来た。

 店内には大きな蛍光灯が六本あり、どれも同じ白さで点いている。洗濯機の操作盤には緑の数字。乾燥機の上には赤いランプ。両替機の青い画面。夜を細かく区切るように、小さな灯りが並んでいた。

 花南が使ったのは三台目の洗濯機だった。

 残り三十一分。

 緑の数字が一つずつ減る。ドラムが回り、カーテンが窓を覆うたび、内部の灯りが隠れた。

 明るい。

 暗い。

 明るい。

 暗い。

 外では雨が弱く降っている。空調の低い音に、濡れたタイヤが道路を通る音が時々重なった。

 二台目の乾燥機だけが回っていた。

 持ち主はいない。赤いランプが点き、丸い窓の中で薄桃色の毛布がゆっくり回っている。

 残り時間がゼロになり、ランプが消えた。

 しばらくして入口のベルが鳴った。女性が一人、傘を閉じて入ってくる。毛布を抱え、頬へ一瞬押し当てて乾き具合を確かめた。温かさに目を細めたように見えたが、すぐ籠へ入れた。

 女性が出る。

 ベルが鳴る。

 二台目は暗くなる。

 店に残ったのは、三台目の緑の数字と蛍光灯だけだった。

 花南は暗くなった丸い窓を見た。ガラスには蛍光灯と自分の膝が映り、奥は見えない。さっきまでの薄桃色は、記憶の中にだけ回っている。さっきまで誰かの毛布が回っていた場所が、ただのガラスへ戻っている。灯りが消えても、店がなくなったわけではない。

 洗濯を終え、少し湿ったカーテンを持ち帰った。

 部屋へ入り、いつものように全部のスイッチへ手を伸ばす。廊下の闇は細く長く、奥の鏡だけが窓の光を返していた。

 天井灯だけをつけ、洗面所と玄関は暗いままにした。カーテンを掛けると、外の街灯が布を通して薄く浮かんだ。

 部屋には一つの大きな灯りと、窓辺の小さな灯りがある。

 花南は天井灯を消した。

 暗さはすぐには近づかず、窓の向こうで雨だけが静かに続いていた。