三台目の清掃車
大型商業施設の清掃契約更新会議で、倉橋野すみれは下請け清掃会社の配車担当として、違約金八百万円と契約解除を告げられた。施設の廃液が郊外へ不法投棄され、防犯映像に自社ロゴの清掃車が映っていたという。
芦刈施設部長は三枚の写真を出した。午前一時十二分、白い車体、青いロゴ。車両番号は末尾37。
すみれは車両台帳を開いた。自社の清掃車は二台で、末尾は17と27。37は存在しない。
芦刈は、臨時車両を隠しているのではないかと責めた。
すみれは写真を拡大した。ロゴの会社名は一文字だけ字体が違い、磁石シートを貼った跡がある。車体側面の小さな資産番号を読むと、施設管理会社が所有する設備搬送車だった。
さらに三枚の写真は、防犯カメラ映像ではなく静止画だった。撮影機器の情報には芦刈の社用スマートフォン名が残り、撮影時刻は会議前日の午後九時四十六分。投棄があったとされる時刻より三週間後である。
芦刈は証拠画像の再現撮影だと説明した。
すみれは自社二台のGPS記録を示した。投棄時刻、17は施設地下、27は車庫。どちらもエンジン停止記録と運転者署名がある。一方、施設の設備搬送車は午前零時五十八分に管理棟を出て、一時三十一分に戻っていた。鍵の貸出欄には芦刈の印がある。
清掃会社の社長は、施設を失えば二十人の仕事が消えると震えた。
すみれは違約金合意書の車両欄を指した。
「三台目を作ったのは、うちではありません」
すみれは設備搬送車の荷台から採取された廃液容器の購入記録も出した。購入者は施設管理会社、納品先は芦刈の管理棟。清掃会社が使う洗剤とは成分が異なり、施設の空調洗浄で発生した廃液だった。投棄責任まで、貼り付けたロゴで下請けへ移そうとしていた。
芦刈は写真の車両番号を読み違えたと言い直した。しかし元画像には37が鮮明に写り、加工履歴には自社ロゴ画像を貼ったレイヤー名まで残っていた。
施設運営会社の代表が契約解除印をケースへ戻した。存在しない清掃車が、実在する二台の契約を終わらせることはできなかった。