三階と四階のあいだ

古い団地のエレベーターは遅かった。

配達員は毎日いらだち、閉まりかけた扉へ荷物を差し込んだ。

とくに三階と四階の間で必ず一度止まる。

故障報告をしても異常なしだった。

管理人から、翻訳用の磁石を操作盤へ貼るよう頼まれた。

エレベーターは階と階の間にいる間だけ話せるという。

上昇中、低い機械声がした。

「九秒、待つ」

「何を」

「三階。杖。廊下、九秒」

三階には足の悪い老人が住んでいる。

呼び出しボタンを押してから扉まで来るのに時間がかかる。

エレベーターは老人が間に合うよう、毎回三階手前で少し速度を落としていた。

「勝手に遅れるな。こっちは時間指定だ」

「九秒」

機械はそれ以上説明しない。

配達員には、入院中の父がいた。

見舞いへ行くたび、父は歩くのが遅くなっていた。

配達員は先に病室へ入り、来ない父へ電話し、廊下で待てばいいのにと思っていた。

翌日、三階で老人が乗った。

「いつも待たせて悪いね」

老人はエレベーターへ頭を下げた。

配達員は何も言えなかった。

その後、機械は階の間で様々な短い声を出した。

「五階。子ども。靴紐」

「二階。荷物。両手」

「一階。泣く。まだ乗らない」

扉の外には、それぞれ九秒や十二秒を必要とする人がいた。

効率だけなら置いていける短い時間だった。

配達員は、閉ボタンを連打するのをやめた。

老人へ荷物を渡すときも、署名が終わるまで急かさなかった。

件数は少し減り、会社から注意された。

そこで配達計画に古い団地の待ち時間を組み込み、同僚へも共有した。

遅れではなく、建物の所要時間として数えた。

父の退院日、配達員は病院のエレベーター前で待った。

父が廊下の角から現れる。

遅い。

配達員は迎えに行き、腕を貸そうとした。

父は断り、自分の速さで歩いた。

九秒。

二十秒。

一分。

配達員は閉ボタンを押さず、扉を手で押さえた。

父が乗ると、

「待たせたな」

と言った。

「建物の所要時間だよ」

配達員は答えた。

団地の翻訳磁石は後に外れた。

エレベーターはもう話さない。

それでも三階と四階の間では、今も少しだけゆっくりになる。

急ぐ人には故障に見える。

待たれている人には、自分の歩幅も建物の時間に含まれていると分かる、小さな優しさだった。