不死身の葬儀屋

桐生高臣は、百十二歳の葬儀屋だった。心臓も肺も骨も機械で、顔だけが七十歳のころに固定されている。

町では三代にわたり、誰かが死ぬたび高臣が棺を整えた。妻も息子も先に送り、自分の子の葬儀さえ滞りなく終えた。そのたび、仕事を完璧にすることで、悲しむ時間を後回しにした。遺族より長く故人を知っていることも多かった。

「死なない人に、死んだ人の気持ちが分かるのか」

そう言われても、高臣は頭を下げた。葬儀進行AIの指示どおり、泣く時間、黙る時間、焼香の間を完璧に作った。死者の名を取り違えたことは一度もなく、その代わり、自分が誰を恋しく思っているのか分からなくなった。

弟子が急死したのは、冬の朝だった。三十年そばで働き、いつも「親方より先には死にません」と笑っていた男だった。

高臣は自分で納棺した。手は震えず、涙も出なかった。人工涙腺は、悲嘆の演出と誤解されないよう業務中は停止されていた。

葬儀の最後、進行AIが告げた。

《故人との関係性に応じ、追悼文を生成しますか》

高臣は拒否した。何を言えばいいか分からなかった。

棺の下から、弟子が残した古い音声端末が見つかった。

「親方。俺が先に死んだら、たまには段取りを間違えてください。完璧だと、こっちまで仕事みたいです」

高臣は初めて、焼香の順番を飛ばした。花を入れる前に棺を閉じかけ、遺族に止められた。笑いが起こり、すぐ泣き声に変わった。

その夜、高臣は次の全身更新を解約した。維持をやめれば、五年から十年で機能が止まる。

周囲は反対した。町には彼を必要とする人がいる。高臣自身も、死ぬのは怖かった。

だからこそ、やめた。

それから彼は若い弟子を二人雇い、失敗もさせた。自分がいなくても葬儀ができるよう、手順ではなく、遺族の沈黙を待つ方法を教えた。

高臣の身体はまだ動いている。だが予定表の最後には、自分の葬儀の日を空欄で残した。

死ねるようになって初めて、彼は葬儀を仕事ではなく、別れの練習として生き始めた。