予約棚の空白

図書館のカウンター勤務三週目、日向寺かすみは、利用者から一冊の本の所在を問われた。

「予約確保のメールが来たから、仕事を早退して来たんです。それなのに、取り置きは解除されたって?」

画面では、三日前に受取済みとなっている。利用者は首を振った。人気の料理本で、予約順位は二十人待ち。規則上、受取処理後の本を戻すことはできない。再予約なら、今からさらに二十人の後ろになる。

先輩は「同じご家族が受け取った可能性」を尋ね、再予約を案内しようとした。利用者の顔がさらに硬くなる。

かすみは受取履歴を開いた。処理した職員は、氏名検索から利用者を選んでいた。同じ読みの「たかはしみさき」が二人いる。一人は今回の利用者、もう一人は住所も年齢も違う。会員番号の末尾だけが、六と八で似ていた。

別人の予約を、誤って受取済みにしたのだ。かすみ自身も研修で、カードを忘れた人には氏名検索で対応できると教わっていた。今回だけの不注意ではなく、間違えられる手順だった。

では本はどこへ行ったのか。もう一人の貸出履歴には、その料理本がない。かすみは返却台、予約棚、配架待ちのワゴンを順に調べた。閉館間際、分類番号の違う菓子作りの棚に、予約票を抜かれた本が差し込まれているのを見つけた。表紙の色が似ていたため、戻す場所まで誤られていた。受取処理だけされ、貸出処理前に利用者が「頼んでいない」と返したらしい。

かすみは本をカウンターへ運び、経緯を説明した。

「見つかったからいいです」と利用者は言ったが、その前に小さくため息をついた。「次も同じなら、もう予約しません」と続けた。早退した時間は戻らない。

かすみは貸出期限を通常より延ばす承認を取り、次回から予約本の受取時は氏名検索ではなく、利用者カードの読み取りを必須にする修正案を出した。似た氏名が出た場合の警告表示も、システム担当へ依頼する。

閉館音楽が流れ始める。先輩は「今日はもう上がっていい」と言った。

かすみは予約棚に残る本を一冊ずつ、票と会員番号で照合し始めた。

「この空白が一つだけとは限りません。最後まで見て、次の閉館業務も私が引き受けます」