二つ目のコントローラー
堂前海里は、壊れたゲーム機を捨てられずにいた。
十年前の据え置き型で、電源は入るが画面が映らない。このシェアハウスへ来た頃、住人たちは毎晩それで対戦した。いまは仕事の時間がずれ、食事も別々だ。
特に三枝智成とは、半年口をきいていない。共同イベントの費用を海里が使い込み、返済はしたものの、企画そのものが潰れたからだ。
粗大ごみの日、智成が本体を玄関へ運んだ。
「待て」
「誰も使わない」
「直す」
「半年言ってる」
海里は本体を奪い、食卓へ置いた。智成はため息をつきながら工具箱を持ってきた。
裏蓋を外すと、埃がフェルトのように詰まっていた。二人でブラシをかけ、端子を磨く。映像出力の部品がぐらついている。
「はんだ、できる?」
智成が聞く。
「動画で見た」
「それは、できない奴の返事」
智成がこてを握り、海里が基板を固定した。焦げた樹脂の匂いが立つ。作業中、古いプロフィール一覧が話題になった。
「退去した奴らのアカウント、消すか」
「容量は足りてる」
「死人の名簿みたいだろ」
「帰ってくる奴もいる」
智成は返事をしなかった。彼も来月には転職で地方へ移る予定だった。海里には直接告げず、共有チャットの予定表だけ更新していた。
組み直し、テレビにつなぐ。最初は砂嵐。端子を押さえると、懐かしい起動画面が出た。
海里が一つ目のコントローラーを取る。智成は立ったままだ。
「動作確認」
「一人でできる」
「対戦端子も直ったか分からない」
智成は二つ目を差した。キャラクター選択画面には、昔使っていた名前がそのまま残っている。二人とも別のキャラクターを選び、三分だけ遊んだ。
勝ったのは智成だった。海里は再戦を押さず、電源を切る。
「引っ越し先、車出す」
「費用は」
「前みたいに共同費からは出さない」
「当たり前だ」
翌日、ゲーム機は玄関ではなく居間の棚へ戻った。コントローラーは二つとも接続したまま、ケーブルだけ整えて巻かれている。
智成の退去予定は消えていない。海里は共有チャットに〈引っ越し作業、参加〉とだけ書き込んだ。その夜、智成が帰ると、棚の二段目に彼専用のコントローラーが置かれ、付箋に〈持っていくな。帰省用〉とあった。智成は剥がさず、充電ケーブルを差した。