二枚目の供述調書
坂東洋介は、供述調書の二枚目だけを読ませてくれと言った。
高辻玲司警部補が差し出すと、坂東は一行目で首を振った。
「これは俺が読んだ紙じゃない」
坂東は繁華街の傷害事件を目撃したが、証言を変えたとして偽証の疑いをかけられている。最初は『午後十一時十分、被害者と警察車両を見た』。提出された調書では『午後十時十分、被害者を一人で見た』。警察車両の記述が消え、時刻も一時間早い。
「最後のページに、あなたの署名があります」
「最後は同じだ。替えられたのは二枚目だけ」
「全ページを確認したと書いてある」
「確認した紙と、今の紙が同じだとどう証明する?」
監視窓の向こうには荒巻刑事課長がいた。事件当夜、十一時台に現場を走った車両の責任者でもある。
玲司の端末に指示が届く。
――被疑者の言い逃れ。署名の事実だけ取れ。
坂東は二枚目の下端を指した。文書番号は「HJ―六四二―B」。一枚目と三枚目は「HJ―六四二―A」だった。別の印刷データから差し込まれている。
「Aの二枚目はどこですか」と坂東が訊く。
「廃棄された可能性もある」
「なら、俺の証言じゃなく、誰かの都合が廃棄したんだ」
玲司は文書サーバーを検索した。A版は削除済み。しかし印刷待ち領域に、送信エラーの一時ファイルが残っていた。開くと、坂東の言うとおり十一時十分と警察車両の記述がある。B版の作成者は荒巻。作成時刻は坂東が署名した二時間後だった。
「あなたは警察車両の運転者を見た?」
「見た。荒巻さんだ」
荒巻が取調室へ入ってきた。
「その男は時間を混同している。二枚目の差し替えは誤字訂正だ」
「一時間と車両一台が、誤字ですか」
「高辻、誰に雇われているか考えろ」
坂東は黙って玲司を見ていた。これは自分の偽証容疑を解く質問ではない。玲司が、どちらの二枚目を正式な記録として選ぶかを見ている。
玲司はA版を復元し、B版と並べた。二つの文書番号、作成時刻、作成者が同時に見えるよう画面を固定する。
そして差替え調査報告書の添付資料一、二として、両方の二枚目を登録した。