五つの感覚

一人目を斬ったとき、トルメクから光が消えた。

目は開いている。だが回廊も松明も、剣先から落ちる血も見えない。

《五喰い》は血を吸うたび、使い手の感覚を一つ奪う。順番は決まっている。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。五人斬れば、世界との窓がすべて閉じる。奪われた感覚は、鞘へ戻しても眠っても戻らない。歴代の使い手は三人目で剣を捨てた。四人斬った者はいたが、五人目まで進んだ者の記録は、そこで筆が止まっていた。

王女を連れ去った五人の司祭は、回廊の先に縦一列で待っていた。

トルメクは壁へ左手を置き、足音を聞いた。二人目の息遣いに合わせて踏み込み、剣を振るう。

音が消えた。

自分の呼吸も、倒れた身体も、王女が奥で叫ぶ声も聞こえない。

床の振動だけを足裏で読む。香の匂いが濃い方へ進み、三人目の短剣を頬すれすれに避けた。喉を斬る。

匂いが消えた。

血も煙も、幼いころ王女と盗んだ林檎の香りも、記憶の中で形を失う。

四人目は毒を口へ吹きつけた。舌に苦みが広がる前に胴を払う。

味が消えた。

毒か唾液か分からないものを吐き、壁を頼りに進む。残るのは触覚だけ。石の冷たさ、剣の柄、足裏の亀裂。世界は一本の細い糸になった。

最後の司祭が王女を盾にした。

見えず、聞こえず、匂いも味もない。それでも、王女が幼いころ恐怖をこらえると、右手の小指で三度机を叩いたことを覚えている。

指先へ、かすかな振動が三つ届いた。

トルメクはその位置より半歩上へ剣を突き出した。

五人目の血が刃を伝う。

触覚が消えた。

剣を握っているか、立っているか、身体がまだあるかさえ分からない。王女が拘束を解き、彼へ駆け寄る。抱きついて名を呼ぶ。しかしトルメクには何も届かない。

彼の目は開き、耳も形を保ち、皮膚にも傷はなかった。

それでも中には、光も音も温度もない。

王女は剣から彼の指を一本ずつ外した。

最後まで柄を握っていたのがトルメクなのか、剣の方だったのか、触れられる者にはもう確かめられなかった。