五分遅れの返事

「五分あれば、間に合うよ」

小峰つむぎは、浜名善が終電を気にするたびそう言った。

善は来月から北海道の研究施設へ移る。飛行機なら会える距離だと互いに笑ったが、二人は恋人ではない。月に何度会えばいいのか、誰が航空券を取るのか、決める資格がなかった。

最後の食事の帰り、駅へ着いたのは終電一分前だった。善が階段を上ろうとした瞬間、構内放送が流れる。

《最終列車は、先行列車の影響により五分遅れて運転しています》

「ほら、間に合う」

つむぎは笑った。けれど善は動かない。五分の猶予ができたせいで、言わずに済むはずだったことが、二人の間に残った。

「向こうに着いたら連絡する」

「うん」

「落ち着いたら、遊びに来て」

「落ち着くって、いつ?」

善は答えられない。曖昧な約束なら、忙しさの中で消える。つむぎはスマホを開き、三か月先までの予定を表示した。

「第一土曜。私がそっちへ行く」

「毎月?」

「偶数月は善がこっち。無理な月は、その場で次を決める」

つむぎは候補日を一つずつ登録し、善へ招待を送った。彼はすべて承諾し、一回目の航空券をその場で購入する。行き先は東京。つむぎの誕生日の前日だった。

列車到着の放送が流れる。善は乗車口へ向かわず、つむぎの手を取った。

「返事、これでいい?」

告白の言葉はなかった。予定表に並んだ往復の印と、離れない指が答えだった。

善は次の駅までタクシーで先回りすると言い、今夜はつむぎの電車を見送る。ドアが閉まる直前、つむぎは彼を名前だけで呼んだ。

電車が出たあと、善は空港までの経路を調べ、つむぎは次回の休暇申請を下書きした。どちらかだけが通う形にしないことも、その場で決める。五分で作った予定は簡単なものだったが、曖昧な「いつか」より、二人にはずっと頼もしかった。

善は最初の搭乗券を、つむぎとの共有予定へ添付した。

「五分あれば、間に合うよ」

終電のための五分は、離れても会い続ける日を決めるには、思ったより長かった。