五十二円足りない

咲良はセルフレジの画面に出た合計を見て、指を止めた。

千五十二円。

財布には千円札が一枚。交通系ICの残高は八十六円だが、この店では併用できない。給料日まで二日だから、現金だけで買うと決めていた。

かごの中身は、食パン、卵、もやし、納豆、バナナ、ヨーグルト。全部必要に見える。どれか一つを戻せば済むのに、後ろに人が並んだ気配がして、頭が急に働かなくなった。

店員呼び出しのボタンを押す。赤いランプが点滅した。

「一点、取り消したいです」

やって来た店員は、慣れた手つきで画面を戻した。咲良はヨーグルトを差し出した。百二十八円。五十二円のために手放すには大きいが、ほかを選び直す余裕がなかった。

「こちら、お預かりしますね」

店員は何も気にしていない。後ろの人も、たぶん咲良の財布事情など見ていない。それでも顔が熱かった。

会計は九百二十四円。レシートと七十六円を受け取り、袋へ商品を詰める。空いた場所が、ヨーグルト一個分より大きく見えた。

帰宅すると、咲良は食パンの袋を開けた。夕飯は納豆トーストにする予定だったが、急に何も作りたくなくなった。給料日前に千円しか持たず買い物へ行った自分が、計算のできない子どものように思えた。

テーブルの上でレシートを伸ばす。よく見ると、バナナは見切り品で二十円引き、食パンには翌週使える三十円券がついている。暮らしは五十二円で合格と不合格に分かれるほど、きれいな計算ではなかった。

咲良は食パンを一枚、そのままかじった。次にバナナを一本食べた。組み合わせは朝食のようだったが、夕飯にしてはいけない理由はない。

納豆は明日、卵は明後日まで持つ。ヨーグルトがなくても二日は来る。

咲良は七十六円を小さな皿に置いた。足りなかった五十二円ではなく、残った七十六円として眺めると、少しだけ形が違って見えた。

皿の硬貨を指で並べると、五十円玉一枚、十円玉二枚、一円玉六枚になった。小さな銀色と銅色は、恥ずかしさとは無関係に光っている。

咲良はレシートを丸めて捨てた。今夜の会計は終わった。計算を間違えた自分まで、返品する必要はなかった。