五膳目の箸袋

大晦日の夜、定時制高校の元寮母室には四人の若者が残っていた。年齢も仕事もばらばらで、共通しているのは、帰省先を書けなかったことだけだ。

大河内渉と牧野礼美が年越しそばを作った。乾麺は五束、海老天は三本。渉は海老を半分に切り、礼美は長ねぎを薄く刻んだ。

「一束余る」

「明日の朝でいい」

渉は言ったが、礼美は全部ゆでた。大鍋の湯が吹きこぼれ、二人でコンロを拭く。つゆを四つの椀へ注ぎ、それから礼美は戸棚の奥から五つ目を出した。

渉は年が変わる前に出るつもりだった。昼、父から〈今夜だけなら物置で寝ていい〉と連絡が来た。歓迎ではなくても、血のつながった家へ戻る最後の機会に思えた。鞄はすでに玄関にある。

礼美は古い求人チラシを長方形に切り、箸袋を折った。四つで手を止めず、五つ目も作る。

「誰の分」

「遅れてくる人」

「誰も来ないだろ」

「じゃあ、早く戻る人」

四人でそばを食べ始めた。五つ目の椀には蓋がされ、箸袋だけが白いまま置かれている。

十一時四十分、渉は鞄を持った。父の家まで電車で一時間。今出ても年越しには間に合わない。メッセージには追加で〈近所に見られる前に朝は出ろ〉と届いていた。

渉は玄関で十分立ち、鞄を下ろした。寮母室へ戻ると、皆はテレビの音量を上げていた。誰も理由を聞かない。

テレビでは駅前の人混みが映り、画面の中の誰もが帰る先を知っているように見えた。渉の鞄は玄関に置いたままだったが、礼美は奥へ運ばなかった。出るか残るかを勝手に決めないためだった。午前零時が近づくと、五つ目の椀の蓋から細い湯気が漏れ、誰かの席というより、空けておける席に見えた。

残った海老天の半分も五つ目の椀へ載せられていた。渉は礼美の椀へ戻そうとしたが、箸袋の自分の名を見て、そのままかじった。衣は冷めていたが、つゆはまだ温かかった。

彼は五つ目の箸袋へ油性ペンで「渉」と書いた。冷めたそばを鍋へ戻し、礼美と一緒に温め直す。食べ終えた椀は洗って、ほかの四つと同じ棚へ伏せた。