伏せた画面

眞鍋郁斗は、工場跡を巡る配信者だった。廃墟の機械が好きで、怪談には興味がない。

旧織物工場の資料室で、操業日誌を見つけた。女工たちは夜中に無人の織機が鳴ることを「影織り」と呼んでいた。最終頁に、青いインクで一文だけ残っている。

《機織りの音が聞こえても、スマホを伏せてはいけない》

郁斗は日誌をカメラへ見せた。視聴者は「絶対伏せろ」と煽ったが、彼は無視して作業場へ入った。

零時を過ぎると、電源のない織機から、かたん、ことん、と音がした。配信の自動字幕はそれを《一人目》《二人目》と数え、音が鳴るたび人数を増やした。カメラには何も映らない。だがコメントには《画面の裏にいる》《レンズじゃなくて郁斗を見てる》と流れた。視聴者数は、織機の数と同じ四十八で固定され、退出ボタンも消えていた。

突然、照明が破裂した。郁斗は反射的にスマホを作業台へ伏せた。一度だけだった。

作業台の木目を映すはずの背面カメラには、郁斗の閉じた瞼が全面に映った。黒い配信画面に、顔認識の四角が次々と浮かんだ。カメラは塞がれているのに、二十人、三十人と人数が増える。機織りの音は速くなり、コメントが郁斗のアカウントから投稿された。

《糸になりました》

《こちらから見ています》

《表を返して》

拾い上げた瞬間、織機の一本にスマホと同じ幅の黒い布が織り上がった。郁斗はスマホを拾い、工場から逃げた。配信を削除し、端末を初期化した。

翌週、日常は戻ったように見えた。だが日曜の朝、スマホがスクリーンタイムの報告を出した。

【画面を見た時間:〇分】

【画面に見られた時間:七時間四十八分】

最も使用した相手:影織り

詳細を開くと、睡眠中の郁斗を真上から撮った画像が一分ごとに並んでいた。全ての写真で、枕元のスマホは伏せてある。

最後の一枚だけ、画面が上を向いていた。そこに映る寝床は空だった。

スマホの内側から織機の音がする。

通知が一行追加された。

【本日の素材:眞鍋郁斗 一名分】