似合わない服を教える
匿名アカウント「似合わない服」が、莉子の私服を採点し始めた。
〈脚が短く見える〉
〈その色で外を歩ける勇気だけは百点〉
〈友達は止めなかったの?〉
莉子は毎朝、鏡の前で泣いた。私は彼女を守るため、服を選ぶようになった。目立たない紺、失敗しない白、体形を隠す長い丈。
大学の頃から、莉子は私より先に褒められると浮かれて妙な買い物をした。私が「やめたほうがいい」と言えば結局感謝した。匿名の採点は残酷だったが、内容自体は間違っていないことが多かった。
買った服のタグは私が切り、返品されないようレシートも預かった。外出前には全身写真を送ってもらった。私が丸を付けた服の日だけ投稿されないので、莉子は助言をますます信じた。
「確認しないと、また撮られるよ」
莉子は次第に、自分で服を選ばなくなった。匿名投稿も減った。私の助言が正しかった証拠だ。莉子は服の話をしなくなり、私の隣で写真に写るときも半歩後ろへ下がった。以前より穏やかになった彼女を見て、私はやっと身の丈を覚えたのだと思った。
ある朝、莉子が鮮やかな黄色のワンピースを着て現れた。
「それ、似合わないよ」
「まだ写真、送ってないけど」
私は言葉に詰まった。昨夜、彼女のクローゼットで見たからだ。黄色は肌をくすませると、匿名アカウントの下書きに先に書いていた。合鍵は緊急用だったが、服を確認するのも安全のためだと思っていた。
莉子は私のスマホを見せた。匿名アカウントへのログイン通知が表示されていた。私の部屋の位置情報付きで。
「どうして私を笑いものにしたの」
「他人にもっとひどく言われる前に、直してあげたかったの」
本心だった。莉子は昔から褒められると調子に乗り、失敗する。私だけは正しく見ていなければならない。
彼女はワンピースの裾を揺らし、鍵を返せと言った。
私はアカウントを消すと約束した。帰宅して管理画面を開くと、投稿予約が一件残っていた。
そこには、莉子が私に一度も見せていない黄色いワンピースの写真が登録されていた。