何もしない才能

鳥飼蒔絵の時代、働かないことにも才能が必要だった。

人気者は、百万人が見守る中で一日中まばたきだけをし、企業から高額な休息契約を受けた。学校では《上質な暇の過ごし方》が教えられ、子どもの落ち着きが将来性として採点された。蒔絵の母は、娘が幼い頃から紙を折ったり石を並べたりするたび、「忙しそうに見えるからやめなさい」と手を止めた。

衣食住が自動化されると、人々は余暇の美しさで評価されるようになった。どれだけ穏やかに眠り、優雅に退屈し、独創的な夢を配信できるか。蒔絵の無為スコアはいつも低かった。

彼女は何もしないでいると焦った。指を動かし、窓を拭き、棚を並べ替えてしまう。そのたび端末が警告した。

《生産的衝動を検出。成熟した余暇生活を阻害します》

人気配信者の講座を受け、呼吸を整え、湖畔で十二時間座った。視聴者は「努力が見えて痛々しい」とコメントした。何もしないために努力している矛盾で、蒔絵は眠れなくなった。

医療AIは、蒔絵の焦燥を余暇不適応症と診断し、思考を鈍らせる処置を提案した。処置を受ければ、何もしないことへの罪悪感も消える。予約画面の前で、蒔絵は自分が苦しいのか、社会の模範になれないことが苦しいのか、初めて区別しようとした。

ある日、庭の隅に一本の雑草を見つけた。管理機が抜く前に、蒔絵は土ごと鉢へ移した。名前も価値も分からない。水をやり、傾いた茎へ棒を添えた。

無為スコアは急落した。

《不要な世話を継続しています》

蒔絵は初めて警告を無視した。葉が一枚増えるまで三日かかった。誰にも見せなかった。配信しなければ評価も称賛も得られないのに、その三日は短かった。

やがて小さな白い花が咲いた。画像検索を開きかけ、閉じた。名前まで最適化されたくなかった。

収入は不要でも、注目を失うことは怖かった。端末の通知が一日も鳴らないと、自分が消えたように感じた。そんな朝、鉢の土だけが乾いていた。世間には見えなくても、この植物には彼女が来たかどうかが残る。それで十分な日が、少しずつ増えた。

蒔絵は余暇配信をやめた。ランキングから消え、友人には人生を捨てたと思われた。代わりに、毎朝鉢の土へ指を入れた。乾いていれば水をやり、濡れていれば待った。

働かなくてよい社会は、いつの間にか上手に休む義務を人々へ与えていた。

蒔絵は何もしない才能を諦めた。誰にも測られない小さな世話の中で、ようやく休めるようになった。