余りもののピザトースト

 迷宮案内人サフィラは、昨日のパンを出されたと知って眉を上げた。

 異界喫茶「朝の裏側」の店主は、少し乾いた食パンへケチャップを塗り、薄切りの玉葱、ピーマン、ハムを載せ、最後にチーズを山ほどかけた。

「客へ古い糧食を出すのか」

「焼けば、今日のピザトーストです」

 サフィラの案内隊は先週解散した。喧嘩ではない。戦士は故郷へ、魔術師は研究塔へ、治療師は家庭を持った。迷宮地図も道具も残ったのに、使う仲間がいなくなった。部屋の隅に積んだ装備を見るたび、自分まで余ったように感じていた。

 トースターの中でチーズがふくらみ、縁が薄く焦げる。店主が皿へ移すと、熱い油とオレガノの香りが立った。

 サフィラは三角に切られた一枚を持ち上げた。底はかりっと硬く、上のチーズは糸を引く。一口噛むと、乾いていたパンがケチャップと野菜の水分を吸い、縁は香ばしく、中央は柔らかい。ハムの塩気と玉葱の甘さが、焦げたチーズに包まれた。

「昨日より、今日の方がうまい」

「昨日のパンだから、よく焼けるんです」

「新しいパンでは駄目か」

「新しいのもおいしい。でも、少し乾いた方がソースを吸います」

 サフィラは二切れ目をゆっくり食べた。迷宮の古い地図も、今さら役に立たないと思っていた。けれど新人案内人なら、落とし穴の位置や休める洞窟を知りたいかもしれない。

「使い終えた地図へ、説明を書き足してもよいだろうか」

「今日の人が読めるなら、今日の仕事になります」

 店主はパンの耳で小さなラスクを作り始めた。捨てる部分がないらしい。

 食後、サフィラは鞄から折れた地図を出した。余白へ、〈この角は風が強い。火を消さないこと〉〈三層目の泉は冬も温かい〉と書く。仲間と笑った場所も、小さな印で残した。

 店を出る前に、ピザトーストを一枚包んでもらった。明日、案内人組合へ地図を届けるときの朝食にする。

 夜道を歩くと、紙袋からチーズと焼けたパンの香りが漏れた。昨日のものを抱えていても、足はちゃんと明日の方へ向いていた。