信号が二回変わるまで
早乙女真帆は、壁の時計が止まっていることに夕食後気づいた。秒針は十一のところで動かない。予備の単三電池は一本もなかった。
ラッキーは毛布の上で浅く息をしている。午後、獣医から心臓の薬を増やしても、もう長くは保てないと聞いた。明日からは外へ出さない。今夜、本人が望むなら短い散歩だけ。
コンビニまでには大きな信号が一つある。往復して電池を買う。それを最後の散歩にした。
十五歳のラッキーは、青信号の点滅音が嫌いだった。若いころから、音が鳴ると横断歩道の途中で止まる。真帆は信号が変わった直後まで待ち、抱き上げずに渡らせた。
半分を過ぎたところで、ラッキーの足が止まった。点滅音が速くなる。真帆はリードを引かず、後ろから来た人へ頭を下げた。赤に変わる寸前、二人は中央分離帯へたどり着いた。
次の青まで待つ。車が左右を流れ、ラッキーは真帆の足首へ体を預けた。信号がもう一度変わると、残り半分をゆっくり渡った。
コンビニでは電池を四本買った。二本入りで十分だったが、同じ棚に四本入りしかなかった。真帆は余る二本の使い道を考え、考えるのをやめた。
帰りも信号を二回使った。部屋へ戻ったころには、ラッキーは玄関マットへ伏せ、もう毛布まで歩かなかった。
真帆は壁の時計を外し、裏ぶたを開ける。古い電池を抜き、新しい一本を入れる。余った三本は引き出しへしまわず、時計の下へ置いた。
レシートには二十二時十四分と印字されていた。真帆はそれを折り、散歩バッグの内ポケットへ入れる。横断歩道の中央分離帯では、帰りにも一度休んだ。ラッキーの爪が点字ブロックの丸へかかり、青になるまで一つずつ数えるように踏み直した。
コンビニ袋は歩くたびに乾いた音を立てた。ラッキーがその音へ耳を伏せるので、真帆は電池をポケットへ移し、袋を小さく畳んだ。帰宅までの残りは、リードの金具だけが鳴った。
秒針が十一から十二へ進む。次の一秒を刻む音がして、止まっていた時計はまた歩き始めた。