僕らの代表者

伊吹沢悠生は、葛城谷圭吾を指名した。

狭間井美冬が目を見開き、圭吾は余裕の笑みを浮かべる。

「証拠はあるのか。俺が代表だという」

壁の規則は一つ。

〈参加者を代表する一人を犠牲者として選べ。代表者の選定が有効なら、他の参加者を解放する〉

三人には代表選挙の方法も、投票用紙もない。圭吾はその曖昧さを利用し、開始から命令を続けた。

「俺が話をまとめる」

「二人は黙って従え」

「主催者との交渉は代表の俺がする」

美冬が反発するたび、圭吾は彼女の首輪を盾に脅した。悠生は止めず、卓上マイクの録音灯だけを見ていた。

『自称しただけでは、正式な代表ではありません』

主催者の声に、悠生は再生ボタンを押す。

圭吾の声が部屋へ戻る。

――参加者代表として要求する。制限時間を延ばせ。

その発言に対し、主催者はこう答えていた。

――代表者の要求は却下する。

「あなたが代表者として応答した」

主催者が黙る。交渉記録には、発言者属性〈代表〉が自動付与されていた。運営側が圭吾の芝居を盛り上げるため、正式な肩書きとして扱ったのだ。

圭吾がマイクを踏みつける。

「今、代表を辞める!」

「規則は終了時の代表とは言っていない。一度でも参加者を代表した一人を選べばいい」

美冬も指名を承認した。端末が短く震え、代表者欄が赤く確定した。

〈交渉ログを照合〉

〈参加者代表、葛城谷圭吾〉

〈選定有効〉

圭吾の首輪が赤くなり、二人の錠が外れる。

「卑怯だ」と圭吾が唸る。「俺は二人を生かすために仕切った」

悠生は首を振った。

「君は僕らの意見を聞かなかった。代表になりたかったんじゃない。代表という言葉で支配したかった」

主催者が期待したのは、代表を押しつけ合う醜さだった。圭吾は自分から肩書きを奪い取り、その肩書きが犠牲者の条件だと知った時だけ捨てようとした。

悠生は開いた扉を美冬へ譲った。

「言葉で上に立ったなら、その言葉が置く場所から逃げるな」

録音には、圭吾自身が何度も名乗った〈代表〉だけが残った。