入れ替わった二台のカメラ

放送技師の別当は、局内の防音ブースAへ入り、オンライン番組会議を始めた。警備員はAの扉を正面から見張り、画面でも別当が「A」と書かれた札の前に座るのを確認した。十分後に映像が消え、扉を開けるとAは無人。隣のブースBを開けると、別当が撲殺されていた。Bも閉めれば施錠され、廊下映像では誰もAへ入っていない。

容疑者は配線担当の三宅島、司会者の久世戸、番組責任者の荒砥。三人とも会議へ参加し、別当が放送事故の改竄を告発すれば困る。B側は機材搬入幕の陰で廊下カメラに映らないが、誰も別当がBにいるとは知らなかったという。

AとBは同時収録用に造られ、壁紙も机も照明も左右対称だった。久世戸は画面の札を読み、荒砥は制御卓の表示を確認し、警備員は廊下のAだけを見張った。三つの確認が一致したことで、全員は別当の居場所を確定したつもりになった。だが三つとも、同じ映像名を根拠にしていた。

映像設備から得た手掛かりは三つだけだった。

第一に、別当の背後の吸音板にはB特有の小さな三角傷があった。

第二に、制御卓では「A」と表示された映像へBのカメラ番号が、「B」へAの番号が割り当てられていた。

第三に、その割当変更は事件一時間前、三宅島の保守カードで行われていた。

久世戸は札を外した。それは映像用の小道具で、二室に同じものが置ける。参加者は画面の表示名と札だけで、部屋を判断していた。

「別当がいたのは最初からBです」私は説明した。三宅島は二台の映像割当を交換し、Bの映像をAとして配信した。警備員が守った本物のAは空。三宅島は幕の陰からBへ入り、殺害して退出し、自動錠を掛けた。吸音板の傷が実室を、制御卓が入替えを、保守カードが犯人を示す。二つの部屋の間を死体は移動していない。移されたのは、画面上のAとBだけだった。 見張りは破られていない。ただ、守る部屋を取り違えていた。 画面名と実際の配線を同一視したことが、唯一の誤りだった。